大人は勝たせてくれない ボンクラ将棋上達法 激辛道場編

2021年08月05日 | 将棋・雑談

 前回(→こちら)の続き。

 

 「ダラダラしながら初段になりたい!」

 

 という、スカタンきわまりない将棋ファンのため、「定跡書」「詰将棋」といったトレーニングと無縁なまま、茫洋と二段になった私が、アドバイスしてみることにした。

 わけだが、自分はかなり特殊というか、長い将棋ファン歴で、

 

 「ほとんど実戦を指さない」

 

 というタイプなので、その上達のプロセスを説明するのが、少々ややこしい。

 そこで、まず根本から話してみようということで、将棋自体をおぼえたのが、前回言ったように小学生のころだった。

 初めて買った『将棋マガジン』に載っていた、順位戦C級2組の表の最後尾に

 

 「四段 羽生善治」

 

 という表記があって、6回戦で小阪昇五段に敗れて、昇級戦線から脱落した将棋が紹介されていたから、1986年半ばくらいだったのだろう。

 

 

 一番下にデビュー1年目の羽生善治の名が。

 

 

 父親に、なんとなく町の道場に連れていかれたのだが、それが「南波クラブ」(仮名)というところ。

 今は知らねど、昭和のころの将棋道場というのは基本的に「オッチャンの社交場」であり、女子供にはすこぶる敷居が高かった。

 気はいいが、ガラッパチでブルーカラーのおじさんたちが、煙草の煙モウモウの場所で、軽口鼻歌まじりに指している場には、入ることすら、ちょっとした度胸がいるもの。

 当然、子供が入ったところで「指導する」という文化も、ノウハウもない。

 せっかく道場に行っても、気の知った仲間と指したいオジサンは、愛想のない私などにかまうわけもなく、ひとりぽつねんと取り残されるわけである。

 さすがに、それで席料は取れないということで、マスターがひとりの先生を用意してくれた。

 それがアオバさんという、30代後半くらいの男性。

 棋力はアマ五段

 作家の沢木耕太郎さんのような、ダンディーな雰囲気を漂わせており、この人がこれから指導してくれると。

 そんな強いうえに、物腰もやわらかな紳士に教えてもらえるとはと、期待は高まったが、残念なことに棋力向上の手助けにはならなかった

 理由は簡単で、この人が勝負に関してはマジの大マジで、対局がすべてガチだったから。

 まずガチなところが、手合いがすべて平手戦であったこと。

 当時、こちらの棋力が、アマ6級程度。

 それとアマ五段となれば、二枚落ちですら、まず勝てないほど差があり、六枚落ちとか、それくらいからはじめていいほどであろう。

 それがオール電化ならぬオール平手

 こちらが何連敗しようが、手直り(勝敗ごとにハンディのレベルを変えていくシステム)はなく、延々と平手。

 飛車落ちや角落ちのような、軟弱なハンディ戦など望むべくもなく、すべて互角の条件でのファイト。

 文字通りの「大人子供の戦い」である。

 こんなもん勝てるはずもないというか、ほとんどの勝負が仕掛けの時点でついてしまうほどだが、ガチレベル2として、さらにこんなものもついてきた。

 

 「戦型は全部、アオバさんの右四間飛車」

 

 将棋を多少かじった方ならわかると思うが、右四間というのは破壊力のある戦法である。

 プロレベルだとそう簡単ではないが、アマ級位者クラスなら△62飛△73桂△54銀の形から、△65歩

 とか仕掛けられれば、もうそれだけで防戦困難で、早指しの将棋なら、そのまま無抵抗で、つぶされてしまうことも多いだろう。

 私の場合も、まさにそれ。

 ただでさえ、アマ五段6級という、絶望的な体格差があるのに、そこに右四間でバリバリ攻められては、こちらもなにもできない。

 

 

 

 五段のこの攻めを受け切れる6級など、地球上には存在しません。

 

 

 しかも、居飛車でいこうが、振り飛車にかまえようが、かまわず△62飛から△65歩

 そのまま、タコなぐりにされて終了である。か。

 これでは指導対局もへったくれもなく、ただただ、なにもできずに負け続けることに。

 途中から、ちょっと数えてみたのだが、結局アオバさんとは最低50局

 下手すると、100局近く教えてもらったが、勝てたのはわずか2回

 その数少ない勝利も、アオバさんが、自陣の詰みをウッカリする「トン死」であり、まったくのマグレである。

 これもまた、ガチのポカであり、その証拠に2回とも、投了後のアオバさんはのような形相

 感想戦でもきびしい口調で、

 

 「なんてバカな! こんなひどい見落としがあるものか!」

 「油断した。でなければ、こんな錯覚などするはずがない!」

 

 頭をかかえてボヤきまくりで、メチャクチャに悔しがる

 あまつさえ、こちらをキッとにらむと、

 

 「こんな結末は、めったにあることじゃない。これを実力と過信したら、とんでもない落とし穴に落ちることになるぞ!」

 

 そんなん思てませーん(苦笑)! 

 どんだけマジなんや。こっちは素人の子供なんだよー。

 まあ、アオバさんは指導に関しては素人の「勝負師」だし、まったく悪意がないのは子供心にもわかった。

 とにかく、アオバさんは将棋にマジメで、その証拠に感想戦などは、すごく丁寧に(レベルが高すぎてついていけないことも多いけど)教えてくれる。

 ただ、実戦となるスイッチが入ってしまい、相手を見て「ゆるめる」みたいなことはできない人なのだ。

 高倉の健さんですね。「自分、不器用なんで」。

 だからまあ、別にイヤな思いはしないというか、途中からはもう半分おもしろがってたんだけど、これでは上達の一助にならないのは、ハッキリしている。

 

 「子供や彼女(妻)に、将棋のおもしろさを知ってほしいんですけど、どうすればいいですか?」

 

 男性将棋ファン永遠の願いには、羽生善治九段の言う通り、

 

 「簡単です。100回対局して、100回とも負けてあげてください(笑)」

 

 これしかないんだけど、なかなか、むずかしいもんであるなあ。

 

 (続く→こちら

 

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