前回(→こちら)の続き。
ここまで私の、かなりかたよった棋歴を紹介したが(激辛道場編は→こちら 高校で詰将棋マニアとの出会い編は→こちら ネット将棋で大ブレイク編は→こちら)、
「そんな、いいかげんなやり方で、よく有段者になれたな」
あきれる読者諸兄も、おられるかもしれない。
たしかに、実戦はほとんど指さなかったわ、詰将棋は全然解かないわ、定跡はテキトーだわ。
なんともアバウトきわまりないが、アマ初段クラスまでなら、わりとそんな感じでも、ワンチャンなれるんではないだろうか。
やったことはひとつで、これまでにも書いてきたが、とにかく「棋譜並べ」だけは、たらふくやったもの。
『将棋マガジン』『将棋世界』『将棋年鑑』『週刊将棋』の棋譜から、おもしろそうなのを全部、かたっぱしから並べたわけだ。
別に勉強しようとか、強くなりたいとか、殊勝な思いがあったわけではなく、ネット中継もない時代、プロ将棋を鑑賞するには、それしかなかったのだ。
その際のコツは、とにかく「テンポよく、どんどん並べる」こと。
よく「将棋上達法」のような本には、
「棋譜並べも、ただ漫然とするだけでは意味がありません。一手ずつ手を止めて、自分なりにじっくり考えてから、次の手に進みましょう」
なんて書いてあるが、これはオススメできません。
いや、実際にできるなら、きっとそれがいいんだろうけど、このやり方だと、ほとんどの人が続かないと思うわけだ。
いちいち手を止めてたら、途中でイヤになっちゃうし、どこまで並べたか見失いがちだし、次の手をかくすというのもめんどくさい。
こういうのは、最初から最後までサーっと並べてしまう。
いわゆる「ただの手の運動」と揶揄されるやり方で充分。
解説を軽く参照しながら、サクサク並べてOK。
「棋譜並べ」では読みとかよりも、「手の流れ」や「筋」のようなものを感じ取るのが大事。
細かいことよりも、
「こういう局面では、なんとなく、こういうところに指が行くんやなー」
くらいで充分。
これを続けていると、プロが解説なんかでいう、
「この局面、第一感はこうですよね」
「筋としては、まずこう指してみたいところです」
みたいな手が、自然と浮かぶようになってくる。
具体的に言えば、観戦しながら「ちょいちょい、手が当たる」ようになってくる。
そういう「一目、筋」という手は間違いが少なく、実戦でも役に立つ。
そしてもうひとつ、それより、もっと大きいのが、
「ひねり出した手」
こういうのが、たくさん見られること。
手がない局面から、「フンガー!」と気合一発くり出した手は、いささか精神論的だが、好手悪手の壁を越えて、勢いで「通る」ことも多い。
こないだやってた、2021年、第6期叡王戦から第2局のハイライト。
局面の印象も、評価値換算でも、藤井聡太王位・棋聖が必勝形に近い戦いが続いていたが、この▲54銀が、まさに「棋譜並べ」で、体感できる類の勝負手。
実際にいい手かどうかは不明だが、劣勢の局面からも、なにか「ひねりだす」豊島将之叡王の底力とメンタルにシビレた。
そういった、「火事場の馬鹿力」的な手をたくさんストックしておくと、なにかのときに役に立つもの。
なんというのか、不利な局面をがんばるとか、終盤の泥仕合が楽しくなってくるのだ。
さらにもうひとつ、変な言い方だが「意味不明の手」というのも味わえる。
2000年、第13期竜王戦7番勝負の最終局。
先手優勢ながら寄せでもたつき、かなりアヤシくなったところで藤井猛竜王から飛び出した、よくわからない角打ち。
「一歩竜王」で有名な観戦記を書いた、先崎学九段いわく「サッカーボールが急にふたつになったような異次元空間」。
「2つのボール」に羽生善治五冠は混乱し、△42同金としてしまうが、ここは△33歩と打てば、逆転しててもおかしくなかった。
「逆転勝ち」型の私としては、常に「相手のミス」を、いかに誘うかという戦いとなる。
そういうとき必要なのは、
「わけのわからない局面」
たとえ相手が、アマ級位者や初段クラスでも、
「わかりやすい形」
になると、なかなか間違ってくれない。「教科書通り」の手が通じるように、してはいけない。
そこで、強い人のくり出す「局面を混沌とさせる手」をたくさん見ておくと、これが役に立つ。
たとえ好手でなくとも、本や教室で教わる、「手筋」「格言」のリズムを破壊する指し方。
これこそが、私が棋譜並べで身に着けた、ややマニアックな勝負術なのだ。
そんな、あいまいなもん、使えるのかと言われそうだけど、私は現にそれで二段になれた。
それに、なんといってもこの「漫然と棋譜並べ」は単純作業だから、考えずに勉強できるのが良いのだ。
私が実戦を指さないのは
「考えるのがめんどくさい」
からだから、「読まずに勝つ」スタイルを目指すには、これが一番。
郷田真隆九段の有名な言葉に、こういうのがある。
「いい手は指がおぼえている」
いい棋譜をかたっぱしから並べていれば、まさに、そうなってくれるのだ。
私は米長邦雄永世棋聖の『米長の将棋』がバイブルでした。
『米長の将棋』収録の、1979年の名人戦リーグ。米長邦雄王位と、大山康晴十五世名人の一戦。
△35銀で飛車がほとんど死んでいるが、▲同飛と切り飛ばして、△同歩に▲43歩成がカッコイイ踏みこみ。
佐藤康光九段も座右の書にしていたそうだが、それがわかる一連の手順。
棋譜並べをすると、ここで▲16飛と逃げるのは「ない手」だなと指がおぼえてくれる。
今だとパソコンやスマホでも鑑賞できて、これだと盤面を止めてじっくり見られるから、より便利になったけど、実際に盤を出して、手で並べるのもおススメです。
これは勉強で「手で書いておぼえる」のと同じ理屈。
好きなプロ棋士の手つきをモノマネしながら(これは楽しいのでオススメ)、パシパシいい音を立ててやりましょう。
YouTubeとかラジオでも聴きながら、ダラダラ並べて、あとは実戦を指しまくる。
これで、すぐにでも初段です。
これは囲碁の依田紀基九段や、元奨励会三段の石川泰さんも同じことをYouTubeで話していたから(石川さんの解説動画は→こちら)、きっと効果はバツグン。
私と同じナマケモノはお試しあれ。
(続く→こちら)