「羽生世代」の壁 村山慈明vs羽生善治 2011年 第52期王位戦

2021年08月19日 | 将棋・好手 妙手

 前回(→こちら)に続いて、村山慈明七段のはなし。

 デビューからバリバリ活躍して、将来を大いに期待させた「ジメイ君」だが、順位戦ではB2に定着し、タイトル挑戦もいまだ無い。

 そのポテンシャルからして、「なんでやねん」と言いたくなるが、なかなかが厚い時代が長かったので、大変だったとは思う。

 そんな村山の大きなチャンスだったのが、2011年の第52期王位戦

 予選リーグの白組で三浦弘行佐藤康光窪田義行吉田正和といった面々に4連勝とトップを快走。

 最終戦の相手は、3勝1敗で2位につける、羽生善治名人

 村山が勝てば、文句なしの1位通過で、紅組1位の藤井猛九段と、挑戦者決定戦。

 仮に負けても、もう一回、羽生との同率プレーオフがあるという、有利な立場だ。

 将棋は羽生が先手で、相矢倉に。

 中盤の競り合いで見せた、冷静な受けが好評で、村山有利の終盤戦に突入。

 むかえた、この局面。

 

 

 ここで村山は△43金と受けたが、△42歩とすれば、好機に△78馬と切る筋があって勝ちだった。

 決戦の第1ラウンドは、まず羽生が制したが、最強の男を土俵際まで追いつめた村山も、また充実していた。

 続けてプレーオフ

 今度は後手になった羽生が、ゴキゲン中飛車を選択し、双方ガッチリ固め合う相穴熊戦に突入。

 羽生の手順を尽くした細かい攻めを、村山もを使ってしのいで、チャンスを待つ。

 むかえた、この局面。

 

 

 ここでは村山に勝機があり、▲62金と食いつけば、先手が勝ちだったのだ。

 手順は難解だが、解説によると、この局面で後手の一番ほしい駒は桂馬

 ▲62金なら、その要のを渡さずに攻めを継続でき、穴熊の深さが生きる展開だった。

 だが村山は▲61銀としてしまう。

 穴熊流の食いつき、という思想は同じで、筋は金よりだが、これだと△71金に、▲63桂としなければならない。

 ここで1枚が、どちらの手にあるかが、大きな分かれ目となった。

 それは、その後の手順でわかる。

 銀打ちのが判明するのは、この局面。

 

 

 後手玉は▲72金、△同銀、▲71金からの一手スキで、先手玉は王手すらかからない「ゼット」と呼ばれる状態。

 典型的な、穴熊の勝ちパターンのようにも思えるが、ここで後手に華麗な一着がある。

 

 

 

 

 △45角と打つのが、作ったような「詰めろのがれの詰めろ」で後手勝ち。

 自陣に利かしながら、△89角成からの詰みを両狙いにした、ほれぼれすような攻防手

 ちなみに、後手に桂馬を渡していなければ、図で▲79同金でなく、▲79同銀と取った形にすれば、△45角詰めろにならず先手が勝っていた。

 そして最後の場面。

 

 

 

 先手も懸命の食いつきで、一見受けがないようだが、羽生はすべてを読み切っていた。

 

 

 

 

 △63角で受け切り。

 ▲同と、は△同銀切れ筋

 先手玉は次、△79飛成▲同銀に、△同飛成なら、飛車手番を渡してしまい逆転するが、▲79同銀に、を取らず△88金と打って詰み。

 

 

 

 ここで村山は投了。王位挑戦は夢と消えた。

 羽生善治相手に2局戦い、どちらも勝ちの局面を作った村山は充実していたが、あと一歩がおよばなかった。

 村山はその後、2014年2016年棋聖戦でも、挑戦者決定戦に進出しているが、なかなか、そこから壁を破れない(それぞれ森内俊之永瀬拓矢に敗退)。

 盟友である渡辺明名人によると、

 

 「村(村山の仲間内での呼び名)は人が良すぎるからなあ」

 

 とのことで、その愛される人間性が、かえって勝負にマイナスの要素に、なっているのかもしれない。

 まあ、この手の分析はしょせんは結果論で、一度殻を破ってみれば、全然違う評価を呼んだりするもの(豊島将之を見よ)。

 早く、そのしぶとい将棋を、大舞台で見たいと願っている。

 マジで期待してるんだよなー。

 

 (大山康晴の冷静な勝ち方編に続く→こちら

 (村山の見せた「米長哲学」は→こちら

 

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする