私の好きな名探偵 ビリー・ワイルダー『情婦』のウィルフリッド・ロバーツ卿&ミス・プリムソル

2018年11月28日 | 

 前回(→こちら)の続き。

 ミステリー専門チャンネル「AXNミステリー」が開局20周年を祝してやっていた、ある企画を見たときだった。
 
 その内容というのが、

 「あなたの好きな名探偵投票キャンペーン」

 こういうのを見せられると、小学生のころ乱歩先生の洗礼を受けて以来の玄人のミスヲタである私としては黙っていられないわけで、ここに自分のベストを作ってみるわけである。

 というわけで、本日の名探偵はウィルフリッド・ロバーツ卿

 アガサ・クリスティーの『検察側の証人』に出てきた弁護士で、原作では特にこれといった印象は残さないが、ビリー・ワイルダーが映画化した『情婦』(いまいちな邦題だ。原作通りのタイトルでよかったのに)の方の彼がいいのである。

 名優チャールズ・ロートンが演じているのだが、これが実に味がある。

 その巨体からか、とぼけたようで(車椅子のエスカレーターで移動するシーンなど妙にユーモラスなのだ)、それでいて切れ者弁護士であるというギャップがまずいい。

 敵か味方かわからない、ミステリアスなマレーネ・ディートリヒとの緊張感あるやりとりなど、いかにも「名画」っぽくて惹きこまれる。

 また、名探偵といば「相棒」がつきものだが、ウィルフリッド卿とコンビ(?)を組むエルザ・ランチェスターを配置したのが、シリアスだけでなくコメディーも得意な名匠ワイルダーの真骨頂

 実生活でもロートンのパートナーであったエルザは、さすが息の合ったセリフ回しで、内容的にはやや陰惨なこの犯罪劇に、軽やかさを付与することに成功しているのだ。

 ミステリ劇は状況説明が多いせいでダレやすいといわれるが、この2人の会話劇だけで、その間がずいぶん緩和される。

 ウィルフリッド卿は体を壊しており、彼女はその介護の看護婦役なのだが、尻に敷いているような、仲良くケンカしているような。

 でも最後に真相が明らかになったあとの彼女の力強いセリフで、ロートンが立ち上がるところなど、単なるわき役ではなく、物語に強い芯を通す役割をになっている。

 その能力的にすぐれることあまねきため、ややもすると孤高の存在になりがちな天才的名探偵には、世俗や生活を代表する「相棒」が時に必須だったりする。

 この作品のエルザ・ランチェスターがまさにそれで、手のかかる名探偵の世話をせっせと焼きながら、それでいて彼らが傲慢の罪を犯さないようしっかりと「つっこみ」を入れる。

 これこそ「デュパンと《私》」「ホームズとワトソン」から連綿と続く名探偵の王道といえるのだ。

 『情婦』のウィルフリッド卿、その相棒のミス・プリムソルとセットで、「名探偵俺ベスト」入りです。


 (『シベリア超特急』編に続く→こちら



 ★おまけ ガチでおもしろいミステリ劇『情婦』の全編は→こちらから




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