Blog of SAKATE

“燐光群”主宰・坂手洋二が150字ブログを始めました。

「九月、東京の路上で」本日、プレビュー初日です。

2018-07-20 | Weblog

「九月、東京の路上で」本日21日、プレビュー初日。

以下、パンフレットに記した文です。

撮影・姫田蘭。

 

 

あえて悪夢とは呼ばない

 

私自身の関東大震災についての最初の印象は、吉村昭著『関東大震災』を十代で読んだときの衝撃によって形成されている。

四万人が避難していた陸軍被服廠跡を、台風に近い高気圧の影響の強風、そして周囲の火災が引き起こす「火炎旋風」が襲い、人々は宙に舞い上がり、飛ばされ、三万八千人が亡くなる惨事となった。現在の墨田区・横網町公園とその周辺である。そして、両岸の火を避けすし詰めとなった多くの逃げ場のない避難民を乗せたまま焼け落ちた、永代橋の地獄図。隅田川に何百もの溺死体が浮かんだという。その二つのイメージは、都市の自然災害の最悪のケースとして、考えるだにおそろしかった。

そしてそれ以上に、災害事故ではない、差別が暴力として爆発した「朝鮮人の虐殺」という、厳然たる歴史上の事実に、戦慄した。今回の企画のため資料を集めても、なかなかその全貌がつかめない。多くの証拠は隠滅されている。そして今も、やはり隠されている。この社会から隠そうとする者たちの意志を、感じる。

昨年九月、加藤直樹さんに誘われ、「朝鮮人虐殺犠牲者追悼式典に対しての追悼メッセージ送付を取りやめた小池百合子都知事の決定に抗議する声明」を出す連名に加わった。

追悼メッセージ送付取りやめは、史実を隠ぺいし歪曲しようとする動きに、 東京都がお墨付きを与えてしまうことになる。それは追悼碑そのものの撤去にまで進むのではないか。差別による暴力を容認することで、災害時の民族差別的流言の拡散に再びつながってしまうのではないか。新たな事件が起きることを誘導してしまわないか。と、この声明は指摘している。

その機会に、あらためて『九月、東京の路上で』を読み、これを劇にしようと思った。私の劇団が継続してきた翻訳報告劇(バーベイタム・シアター)の系譜にあてはまるだろうということもあったが、『九月、東京の路上で』という書籍が今現在の日本に存在しているという事実そのものが、演劇的な仕掛けになるという直観がはたらいた。
これから皆さんが御覧になる劇の中で、俳優たちが持っているのは台本ではない。加藤直樹著「九月、東京の路上で」の、単行本そのものである。
俳優たちは皆、まず、この本を手に、舞台に登場する。
彼らが演じるのは、この本をガイドブックに、東京の関東大震災下の虐殺現場跡地を歩いてみる人々である。

私自身、『九月、東京の路上で』を案内者として、東京都下の「虐殺の現場」を巡るツアーを敢行した。加藤さんたちの五年前の作業を追体験することで、たんなる取材とは違う、充実があった。それは東京の歴史と真実を探訪する巡礼の旅であり、自分たちの住んでいる場所を見直す作業としても、意義深かった。

稽古をしていて思ったことは、今回の劇の内容は、とことん日本側から見た「関東大震災」であるということだ。どうもこうもない。「日本人」を描くことを、主眼としている。これは加藤さんの著作の問題ではない。一重に、私の内的な葛藤の産物だ。
虐殺は、事実である。しかし私はあえて「悪夢」とは呼ばない。ひどい出来事だが、決して夢ではない。現実に起きたことだ。誰が加害者かははっきりしている。惨劇の数々を起こした側のコミュニティーに属する者には、それを「悪夢」と呼ぶ権利はない。そのことを見据え、逃げないことが必要だ。

この劇には、亡霊は登場しない。「複式夢幻能」のような構造は、とらない。あくまでも今現在の我々の「体験」としての、舞台表現である。

「九月、東京の路上で」に記されているそのままに、この一冊の本を私たちが共有することで、事実から、風景から、「感じる」ことが、主眼である。

 


⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯

 

「九月、東京の路上で」上演情報


7月21日(土)~ 8月5日(日) 下北沢ザ・スズナリ

原作◯加藤直樹

作・演出○坂手洋二

7/22(日)・7/25(水)・7/23(月)は、ご予約受付を終了させて頂きました。当日券はあります。開演の45分前より販売する予定です。
他の17ステージについては、まだまだ十分お席がございます。

詳しい情報は以下を御覧ください



http://rinkogun.com/Kugatsu_Tokyo.html

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