
ボブ・ディランの若き日を描いた映画『名もなき者』。
若いようでキャリアのある、線が細いようでしっかりしている、ティモシー・シャラメが、ボブ・ディランを熱演。
ジョーン・バエズも出てきて、七〇年代に遅れて接した身ではあるが、懐かしさというか、「時代」を思わざるを得ない。
燐光群の1983年公演『処刑空港』開場時の客入れ時、出演者の誰かの提案で、ボブディランのメドレーを流していた。私は冒頭に出演して長台詞を言うので、開演前スタンバイ時に暗い舞台袖でずっとディランを聴いていた記憶が、甦った。あの頃が一番、染みた気がするのである。
『名もなき者』はアカデミー賞無冠で残念だけど、「成功物語」だからある程度気持ちよく見ていられる。
ウディ・ガスリーやピート・シーガーら先輩ミュージシャンたちとの交流も、心温まる。自分が若いときに先輩たちに受けた恩を思いだしてしまう。シーガーのエドワード・ノートンてこんなおじさんになったのかと思ったら、考えてみたら自分よりは若い。やれやれ。
今の高校生たちや二十歳前後の人には、どう見えているのだろうか、と思う。
「フォーク界のプリンス」であり第一人者であるからこそ、そのことに次第に違和感を抱くようになるディランがロックに転進しようとするあたりの情況が、残念ながら説得力を持って描けていないところは、映画全体が尻すぼみで終わってしまい残念である。
2016年に歌手として初めてノーベル文学賞を受賞しただけの言葉の力というものはあって、私が歌詞が聴き取れない歌が嫌いなのはこの辺の経験からなのかな。嘘だな。英語はちゃんとはわからんから。
音楽映画だし、せっかくなのでIMAXで観た。お客は三十人くらいだったと思うが、ほぼ貸し切り状態を楽しんだ。
さて、シンガーソングライターであり俳優である南谷朝子にお薦めしておいたら、観たようで、感想が、
「『名もなき者』は「水戸黄門」だったのか?! 世界中の誰もが知ってる(つもりになってる)「伝説」を、こうもわかりやすく、心憎いまでに上手いタイミングで曲を入れこんでくれる…ド直球映画をありがとう!です。安心してみられる=水戸黄門的映画でした。イヤミでなく!」
だそうです。
「水戸黄門」といえば、ぜんぜん関係ないことを思いだした。
詩森ろばさん脚本のテレビドラマ『御上先生』が、着眼点と実践の素晴らしさ、特に前半の試験会場の刺殺などショッキングな場面が続き、「テレビドラマでここまで攻めた」と評価されるのも頷ける。成功はめでたい。ただ意外とこのドラマも後半の展開が「水戸黄門」なのである。「敵を欺くにはまず味方から」の謎解きはよいのだが、放映時間延長の最終回はもう謎が解けてしまった後なので、ほとんど水戸黄門が印籠を出した後の時間がずっと続いている感じなのであった。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます