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Blog of SAKATE

“燐光群”主宰・坂手洋二が150字ブログを始めました。

『TATAMI』を観て、引き裂かれる気持ち。

2025-03-29 | Weblog
最近観た映画のことを幾ばくか投稿しているが、なかなか書きづらいのが、『TATAMI』である。

映画としては、よくできている。最近なるべく予備知識なく映画を観ることにしている中で、展開には、素直に引き込まれた。
実話をベースに、イランの政治状況とスポーツの関わりを描いた、社会派スポーツ映画。スポーツ界への政治介入や中東の複雑な情勢、イラン社会における女性への抑圧を背景に、アスリートたちの不屈の戦いを描いている。それは間違いない。

舞台はジョージア(グルジア)の首都トビリシ。そこでのスポーツ大会。
私と燐光群は2011年に、戦後間もないトビリシの演劇祭に招待されて『だるまさんがころんだ』を上演した。世界の演劇批評界全体をまとめる「国際批評家協会」が、私たちを推薦したのだ。当時、その数年前、地雷をもっとも多く埋めざるを得なかったその土地で、地雷廃絶の劇をやるという、厳しい空気の中での、上演。忘れがたい。日本人どころかアジア人とほとんど出会わない街は、私たちは何度か行ったことがあるが、久しぶりだった。フェスティバル・ディレクターはじめ制作スタッフのほとんどが女性だった。劇場ではほぼ英語が通じない。そういう海外事情も話を続けていくときりがない。フェスティバルで一番話題になっていたのは、ジョン・マルコビッチの芝居だった。
ジョージア(グルジア)のタコスというかお好み焼きというか、ハチャプリという料理があって、粉モンに具が挟まっている。これは最後に生卵を落としてあるのがミソなのだが……、そういう話を続けていくと本当にきりがないので、今回はここまで。

『TATAMI』は、柔道の映画である。スポーツに関心のある方々は、かなり前から東欧等で柔道が浸透していることはご存じだと思う。私の界隈もブルガリア等で幾ばくかいろいろあったのだが、まあ、それはいい。三〇年くらい前に東欧にツアーで行ったとき、どの国だったか、楽屋が足りなくて、その施設に「道場」があるから使ってくれと言われて入ったところが、まさに空手と柔道の合わさった畳のある「道場」だった。空手は沖縄流派の直伝で、ヌンチャクやらも常備されていたのが懐かしい……、そういう話も続けていくと本当にきりがないので、今回はここまで。

『TATAMI』は、イスラエル出身の映画監督ガイ・ナッティブと、カンヌ映画祭で女優賞を受賞したこともあるイラン出身の俳優(今回も監督役で出演している)ザーラ・アミールの共同監督。
自国政府から敵対国であるイスラエルとの対戦を避けるため棄権を命じられるイラン代表選手が主人公。
彼女がヒジャブを脱ぎ捨てる瞬間には感動がある。
だって、イスラムは、そうなのですよ。女性は、ヒジャブ。髪を隠す。
私が、これまた十何年か前にノルウェーの〈イプセン・フェスティバル〉に招かれてオスロに行ったとき、イランの学生たちのイプセン作『幽霊』の上演を観た。イプセンはイスラムの思想に反するため、本国では上演できないのだという。そして若き女性の俳優たちはみんなヒジャブを付けたまま演じていた。イプセン世界の女性が抑圧されている状況を、本当に、まざまざと、見せつけられたのである。
だから、『TATAMI』でも、主人公が、まるでトレードマークみたいだったヒジャブを脱ぎ捨てて試合に挑む瞬間には、感動があって、当然なのである。

主人公は、自分自身と人質に取られた家族にも危険が及ぶなか、政府に従い怪我を装って棄権するか、それとも自由と尊厳のために戦い続けるか、選択を迫られる。そして、戦い続けることを決め、しかし、試合には敗れる。その展開は意味がある。勝つか負けるかにカタルシスを求めかけていた観客自身も、批評されるのだ。

製作に参加したイラン出身者は全員亡命し、映画はイランでは上映不可となっているというが、もともとイラン系だけれども生まれたときからアメリカ人だったり等、既に世界で活動している人たちが結集している面もある。そのあたりは正確に理解したい。

ただ、最後に。
『TATAMI』は、イスラエルとイランの合作である。
イスラエルに対して、「イスラエルにだってちゃんとわかり合える人がいる」という事実は、当然として、そう思う。
ただ、『TATAMI』を観て、本当に引き裂かれる気持ちになるのは、イスラエルとイランの合作と言いながら、どこか、この映画が「反イスラム」のために利用されないかということだ。ヒジャブの件だけではないのだ。
パレスチナに対する虐殺を今日この日も行いながら、「こんな表現も受容・許容しているイスラエル」という「国を正当化する」ための道具に使われてしまうのではないかというディレンマに、やきもきさせられてしまうからである。もちろんそれは決してこの映画の罪ではないのだ!



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