Blog of SAKATE

“燐光群”主宰・坂手洋二が150字ブログを始めました。

『あいときぼうのまち』

2014-05-06 | Weblog
先月半ばに試写を見せていただいたのになかなか感想を記していなかったので、そろそろ。
『あいときぼうのまち』は、2011年の震災を軸に描かれる家族史の交錯というべき映画。菅乃廣監督、脚本の井上淳一、撮影の鍋島淳裕、三氏揃って福島県出身という。確かにその思いは漲っている。
1945年、福島県石川町ではウラン採掘が行われ、1966年、福島県双葉町では原発建設反対運動が潰され、2011年、福島県南相馬市で暮らす家族に津波と原発事故が押し寄せた……、と解説にあるように、1945年、1966年、震災前の2011年、震災後の2011年が交差して描かれる。
戦時中のウラン採掘という着眼点がいい。こちらも岡山県北端・人形峠のウラン採掘の歴史について2011年『たったひとりの戦争』で描いたばかりで、親近感が湧いてくる。
架空の設定にした割に現実べったりだった園子温監督『希望の国』より遥かにフィクションとしての羽ばたき方がある。フィクションは現実を批評しうるという摂理は、ある。『戦争と一人の女』で監督再デビューした井上氏だが、これまで脚本家としてやってきた人である。
『あの日、欲望の大地で』(監督・脚本ギジェルモ・アリアガ)と類似点が多いのだが、インスパイアされたというよりは参考にした度合いが重すぎる気はする。それに気がついたら『あの日~』のシャーリーズ・セロン、キム・ベイシンガー、ジェニファー・ローレンスらの顔が脳裏にちらついてしまうからだ。けれど気持ちはわかる。突っ込みどころ多しとも思えるが、ラストのホルンの連鎖は私はいいと思う。
俳優たちに対してもいろいろなことを思うのだが、勝野洋、夏樹陽子の六十過ぎの恋愛が嫌みなく描かれている。六十過ぎてモーテルに入るのもいいじゃないか、などと思うのはこちらも歳を取ったからか。……私が高校生の頃、夏樹さんが中島貞夫監督と新作映画宣伝のため岡山東映に舞台挨拶に来たことを思い出した。関係者でどこかの店に入ったのだが判然としない。私は高校時代陸上部だったが映画部の部長も兼任していて、映画館の方々によく呼び出されていて、そういうことがあったのだ。……夏樹さんの歳の取り方は素敵だ。キム・ベイシンガーに負けていない。
この映画には3月に『現代能楽集 初めてなのに知っていた』でご一緒した大島葉子さんも出ており、前後数日はびっしり予定の詰まった日々の最中だったが、この日はそういう日と決め、試写後はまだ日のあるうちから葉子、井上、鍋島氏らと旧シネパトス前の食堂で明るいうちから呑んでしまった。そういう日はそれでいいのだ。
『あいときぼうのまち』というタイトルは、ちょっとしっくりこない。描かれるエリアが「まち」よりも広がりがある気がするからだ。

6月21日(土)より、テアトル新宿ほか全国順次公開。

http://www.u-picc.com/aitokibou/index.html
コメント
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