その駅に止まると
「急行待ちのため、少々停車します」
とアナウンスが流れた
扉があき
外の叢から
たくさんの虫の声が響いてきた
ずっと前から鳴いていたのだろう
車内は虫の声いっぱいに満ちて
そのところどころに人の声がまざった
秋が近い
次の駅をおもうように次の季節をおもうと
やがていっせいに扉が閉まり
電車はゆっくりとうごきだす
小田急線・東北沢という小さな駅を
ひとも荷物も気配も会話も
なにもかもが止まっていたあのひととき
ただ、虫の声だけが
先の方へいった
次の駅、次々の駅まで、ずっと先まで
いつか
速さに振り落とされてしまうまえに
詩を書きたい、とわたしはおもった
時に停泊したことばをためて
虫の声の行く方へ
行く方へ導かれ
小池昌代『小池昌代詩集 (現代詩文庫)』思潮社、2003年、94-95頁。
「次の駅をおもうように次の季節をおもう」とは、すばらしい言葉だ。
では、私はいまいくつ目の駅だろうか。
動いているというよりは、急行待ちのため、停車してるのかもしれない。
「急行待ちのため、少々停車します」
とアナウンスが流れた
扉があき
外の叢から
たくさんの虫の声が響いてきた
ずっと前から鳴いていたのだろう
車内は虫の声いっぱいに満ちて
そのところどころに人の声がまざった
秋が近い
次の駅をおもうように次の季節をおもうと
やがていっせいに扉が閉まり
電車はゆっくりとうごきだす
小田急線・東北沢という小さな駅を
ひとも荷物も気配も会話も
なにもかもが止まっていたあのひととき
ただ、虫の声だけが
先の方へいった
次の駅、次々の駅まで、ずっと先まで
いつか
速さに振り落とされてしまうまえに
詩を書きたい、とわたしはおもった
時に停泊したことばをためて
虫の声の行く方へ
行く方へ導かれ
小池昌代『小池昌代詩集 (現代詩文庫)』思潮社、2003年、94-95頁。
「次の駅をおもうように次の季節をおもう」とは、すばらしい言葉だ。
では、私はいまいくつ目の駅だろうか。
動いているというよりは、急行待ちのため、停車してるのかもしれない。