鳴かぬなら 信長転生記
曹素は曹一族のシンボルカラーである黒の軍旗に包まれて戻ってきた。
水難救助出動中の不慮の事故であるために、柩車など間に合うはずもなく、荷車の荷台にそのまま載せられている。
せめて魏王弟である徴に荷車の前後に軍旗が立てられている。
三尺四方の軍旗には曹素の『素』の字が標され、標を曹に入れ替えればそのまま兄の曹操の軍旗になる。
霊柩は前後に十騎、横に二騎の騎兵が寄り添う。羅城門を潜ると、そのまま曹操と茶姫、救難隊に加わった各級将軍、指揮官。救助された者たちのうち比較的元気な者も後列に並んでいる。
やがて霊柩は内城前の広場に停まり、前後の車輪に車止めが噛まされた。
曹操が手を上げると、霊柩の列が見えたころから奏でられていた迎霊の太鼓が鳴りやんだ。
ゆっくりと手を下ろした曹操は霊柩を見つめたままズンズン近づいていき、曹素をくるんでいる軍旗の顔の部分だけを解き、じっと弟の亡骸を見つめる。
「弟、曹素の幕僚並びに、その部下たちに感謝する。困難な救難作業の中、骸になったとは云え、こんなに綺麗なまま連れ戻ってくれた」
ザザ!
曹素の部下たちが一斉に踵を慣らして姿勢を正す。
「曹素……弟よ、よくぞ、よくぞ、今までこの愚かな兄のために東奔西走してくれた。翻弄させるばかりであったが、よくぞ、ここまでこの兄と魏のために尽くしてくれた! 働いてくれた! 父よ! 母よ! 曹一族の祖霊たちよ! ここに謹んで我が弟曹素の霊を返します、どうか、慈しみの心をもって弟を迎えてやってください!」
そこまで一気に言うと、曹操は両手を広げ天を仰いで慟哭した。
ウオオオオオオ
それをきっかけに、救難隊や部下たちも俯き、あるいは主同様に天を仰いで慟哭の涙を流し、茶姫は曹操の斜め後ろに寄り添う。
青ざめてはいるが、兄曹操のように慟哭はしない。
俺の横で手を合わせている三蔵法師の呟きが聞こえてきた。
むろん声には出ずに、直接に頭の中に入ってくる。三蔵法師の声色ではなくて、本性の一言主の声でな。
――曹素のやつ、いろいろと戸惑っておるようじゃ――
ほう……
三蔵法師が念仏の手を小さくすり合わせると、俺にもその死者の声が聞こえてきたぞ……。
☆彡 主な登場人物
- 織田 信長 本能寺の変で討ち取られて転生 ニイ(三国志での偽名)
- 熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
- 織田 市 信長の妹 シイ(三国志での偽名)
- 平手 美姫 信長のクラス担任
- 武田 信玄 同級生
- 上杉 謙信 同級生 配下に上杉四天王(直江兼続・柿崎景家・宇佐美定満・甘粕景持 )
- 古田 織部 茶華道部の眼鏡っ子 越後屋(三国志での偽名)
- 宮本 武蔵 孤高の剣聖
- 二宮 忠八 市の友だち 紙飛行機の神さま
- 雑賀 孫一 クラスメート
- 松平 元康 クラスメート 後の徳川家康
- リュドミラ 旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ 劉度(三国志での偽名)
- 今川 義元 学院生徒会長
- 坂本 乙女 学園生徒会長
- 曹茶姫 魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
- 諸葛茶孔明 漢の軍師兼丞相
- 大橋紅茶妃 呉の孫策妃 コウちゃん
- 孫権 呉王孫策の弟 大橋の義弟
- 天照大神 御山の御祭神 弟に素戔嗚 部下に思金神(オモイカネノカミ) 一言主