ラジオから「若原一郎」の歌が流れて、ふと思い出した。
詰め襟の時代はおそるべき、お隣のパチンコ店の軍艦マーチを363日聴いていたが、或る日、一方のお隣の旅館に若原一郎が泊まるといい、前日からなんとなく騒がしかった。人口比を都会に当てはめると、日本に現れたポール・マッカートニーかイブ・モンタンの騒ぎかな。
日曜の朝、二階の窓から通りを見おろすと、すでに一台のタクシーがスタンバイして、集まった女性たちが十重二十重に今や遅しと主役を待ちかまえている。
周囲の空気が熱く、そこに質感のリアリズムさえただよっていた。
真っ白いマスクで顔を覆ったスターが、コートを翻してタクシーに三歩で吸いこまれると、歓声とともに女性の人垣はうねって車を取り囲んだ。
一瞬の顔は、りりしい眉の下の眼がちょっと笑って、かくありたいその余裕が人気の証明である。
当方は、歌謡曲では若原もよいが、やはり上原敏の『流転』のほうを、タンノイで聴きたい。
詰め襟の時代はおそるべき、お隣のパチンコ店の軍艦マーチを363日聴いていたが、或る日、一方のお隣の旅館に若原一郎が泊まるといい、前日からなんとなく騒がしかった。人口比を都会に当てはめると、日本に現れたポール・マッカートニーかイブ・モンタンの騒ぎかな。
日曜の朝、二階の窓から通りを見おろすと、すでに一台のタクシーがスタンバイして、集まった女性たちが十重二十重に今や遅しと主役を待ちかまえている。
周囲の空気が熱く、そこに質感のリアリズムさえただよっていた。
真っ白いマスクで顔を覆ったスターが、コートを翻してタクシーに三歩で吸いこまれると、歓声とともに女性の人垣はうねって車を取り囲んだ。
一瞬の顔は、りりしい眉の下の眼がちょっと笑って、かくありたいその余裕が人気の証明である。
当方は、歌謡曲では若原もよいが、やはり上原敏の『流転』のほうを、タンノイで聴きたい。