板倉という建築工法は、いまやあまり目に触れることもない工法ですが、
正倉院の「校倉」は、この板倉が原型であり、
日本古来の木組み工法といわれています。
この工法の研究者である筑波大学名誉教授・安藤邦廣先生の
概念規定は以下のようだそうであります。
<安藤邦廣氏の『現代木造住宅論』(INAX出版、1995)から要旨>
●軸組・・・骨組となる土台・大引・柱・梁を4寸角の杉材を主体として組み、
梁組に補助的に丸太またはその太鼓落し材を用いる。
構造材の種類を整理し、大工手間も合理化する。
構造材は伝統的な継手・仕口を用いて、金物は使わない。
●壁・・・壁・床・屋根を1寸の厚板で構成する。
厚板を柱間に落とし込んで丈夫な壁とし、床梁や垂木に厚板を直張りして
水平剛性を高める。厚板の片面はそのまま表し調湿性と断熱性を活かし、
片面は別材で仕上げて気密性と断熱性を補う。
●その他・・・断熱材は使用せず、壁は漆喰塗りが一般的。
屋根は瓦、床はフローリングまたは畳が一般的な仕上げ。
こうした考え方で、東日本大震災に際して福島県いわき市で、
応急仮設住宅も建設され、そのすばらしさに圧倒されたことがあります。
印象としては非常に無骨で、まことに強い構造耐力を感じさせてくれる。
意志的な木造建築という佇まいを見せてくれます。
こういった板倉建築ですが、北海道内ではあんまり見ることがない。
例外的に、北海道西海岸に建てられた漁場建築において、
倉庫の建物にその片鱗があったように記憶しているくらいだったのです。
江戸期以降の土壁による壁造作に標準化された木造構法確立以降に
筆下ろしされたような北海道の木造では、
こういった伝統的工法は、まず試みられることがなかったのでしょう。
ところが、きのうまで紹介している函館・香雪園内の建築に、
この建物を発見した次第であります。
この香雪園の植栽・庭園造作・建築は本州それも
京都を中心とした伝統技術集団が関与していたようなので、
スジにそういった伝統構法技術が奇跡的に北海道に残された。
用途としてはこの建物、造園技師たちの作業小屋だったようで、
まことに無骨な風情を見せています。
また、中2階の立面計画でプロポーションは伝統的様態。
端正な外観フォルムに、まことに驚かされた次第であります。