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再圧室と「リーマス」〜掃海母艦「ぶんご」見学その2

2019-04-21 | 自衛隊

さて、掃海母艦「ぶんご」の艦内ツァーは、政治家、官僚、政治評論家、
学者、弁護士、その他(わたし)という招待客を引率して行われました。

ところでこのメンバーにどうしてわたしが混じっているのでしょうか。
こうやって書いてみると我ながら実に不思議ですね。

ただ、言わせてもらえば、この中で最も自衛隊に詳しいのがわたしで、
その知識の差は彼らの専門分野とわたしのそれを逆転させたくらい、
というのは間違いのないところです。

ただし、これは裏を返せば、こんなに詳しい人間を、わざわざ
自衛隊への理解を深める初級ツァーに案内する意味があるのか?
ということでもありますけど(自爆)

艦橋と集中制御室を見学したあとは、掃海母艦ならではの施設です。
一般的な自衛艦にはない医療設備を持っており、例えばこの医務室では
手術も可能となっています。

ちなみに手術室を持たない護衛艦などで緊急に手術が行われる場合には、
士官室のテーブルが「手術台」となるため、天井には無影灯が装備されています。

そしてこれこそが掃海母艦にしかない「減圧室」。
水中処分員(EOD)が海中で減圧症(潜水病)になった場合、
母艦に運び込んでここで高気圧酸素治療を行うのです。

前にも書いたことがありますが、潜水士は深海に潜ると
段階的に海中に止まり、時間をかけて徐々に上がってきます。
急激に上がると、高圧下で微小だった血液中の気泡が大きくなって
血管を塞ぎ血行障害を引き起こす潜水病になってしまうのです。

昔は潜水病を起こしたらもう一度深海に沈めたそうですが、
今では人工的に深海と同じ圧力を作り出す装置に閉じ込めます。

これが減圧室です。

減圧チャンバーの外側には「打音信号表」が貼ってあります。
叩く回数によって意味を持たせており、

1、「異常ないか?」または「異常なし」
 (潜降中の時は止まれ)

2、潜降せよ(上昇の時は止まりすぎた、止めるまで潜降せよ)

3、上昇準備をなせ(上昇準備よし)

4、上昇はじめ

潜水士同士の信号だと思うのですが、はて、何を叩くんだろう。
マスク?頭?

ベッドの上に管のようなものが見えますが、これはまさか点滴?

この減圧室にはベッドが二つ、つまり同時に二人収容できるので、第2種装置です。
患者を一人だけ収容するものを第1種装置と言います。

再圧タンクでは治療だけでなく訓練も行われます。

パイプが曲がっているのはカメラの樽型収差?と思い補正してみたら、
今度は某女優さんのインスタ自撮り写真ばりに空間が歪んでしまいました。
つまりパイプは元から歪んでいたらしいことがこれでわかりました。

おっと、海上自衛隊では「減圧室」ではなく「再圧室」でした。

確かに前も、「高圧をかけるのに減圧室という名前はおかしくないか」
と突っ込んでみたのですが、さすがは海自、ごもっともな選択です。

左のカップヌードルケースは水深50mの圧力をかけたもの。
元々の大きさは右のスープヌードルカップと同じだったものです。

問題は、カップヌードルとスープカップヌードルの大きさは
本当に全く同じなのか?ってことなんですけど。

再圧室はベッドのある「寝室兼居室」と、その手前の
トイレや手洗いのある部分に別れています。
同時に二人がいた場合とか、もしかしたら外からも
トイレが見られてしまいそうでものすごく心配です。

ちなみに再圧治療中は携帯はもちろん禁止です。
滞在は結構長くなるので、本などを読んで時間を潰すそうです。

再圧室の見学を終わり、もう一度上甲板に戻りました。
今度は後甲板で何か説明があるようです。

この構造物はデッキクレーン。
手すりで囲まれた部分に乗って操作を行います。

掃海母艦の大事な役目の一つ、掃海艇たちへの餌やり、じゃなくて
燃料・水補給を行うための巨大なホースリールが。

後甲板にいくとエレベーターパレットが下りていました。
掃海母艦のパレットが下りているのを見るのは2回目です。

1度目は深夜の訪問時、食料の補給を行なっているところを見学しました。

機雷の模型などを並べて説明をしてくれるようです。
格納庫の奥には写真も並べてありますが、見る機会はありませんでした。

掃海艇からカッターのついたロープを浮きにつけて引っ張り、
水中に浮いている機雷の係維索を切って海面に浮き上がらせ、
掃討する方法、係維掃海です。

カッターでなく火薬の力で係維索を切断する「爆破型」という方法もあります。

機雷が感応式だった場合もやはり掃海隊で電線を引っ張り、
船の作る磁場だと機雷に「勘違い」させて爆発させる方法もあります。

機雷の模型に機雷の説明が貼り付けてあります。

隣の係維機雷にも触発式と磁気式があり、海の底に沈んでいる
沈底機雷には、

「音響式」「水圧式」「それらの複合機雷」

海底に潜んでいて船が通ると上昇してくる

「上昇・ホーミング機雷」

があるなどといった説明を受けました。

ウェルデッキの底を覗き込むと、そこに三人の掃海母艦乗員が待機していました。

上甲板から下を覗き込むように見ていると、三人の乗員がなぜかこの物体を持ち上げ、
皆の見ている前で向きを変えて置きました。
最初からこの向きに置いておけばいいのにという気もしましたが、
乗員が持って運べるということをおそらく強調したかったのだと思われます。

この機器ですが、恥ずかしながらここまで見ておいて、
記事作成の段階で「水中偵察のためのもの」としか記憶がなく、

困り果てたので、急いで元掃海隊司令にSOSを求めたところ、

「リーマスです」

というお返事。
さらに聞いた記憶がありません。
リーマスという言葉は説明に使われなかったのでしょう。

ご教示いただいたところによると、この一般名称は
海底を自動航走して映像を撮影して戻ってくる、

UUV(Unmanned Underwater Vehicles)

軍用の場合UUV、一般的には

AUV 自律型無人潜水機 (autonomous underwater vehicle)

といいます。

https://www.kongsberg.com/maritime/products/marine-robotics/autonomous-underwater-vehicles/AUV-remus-100/


近年、第二次世界大戦で沈没した軍艦の位置が次々と特定されていますが、
その実績の陰にはこういった無人潜水機の普及もあるのかと思われます。

海上自衛隊のUUVは、東日本大震災後に、当時の掃海隊群司令の提唱により、
比較的浅いところまでのリーマス100(水深100m程度まで)と、
リーマス600(水深600mまで)の2種類が震災対応予算で導入されました。

名目は災害救助、特に津波などによる行方不明者捜索ということでしたが、
海中偵察の無人化もはや世界の海軍の趨勢であることを考えれば、
目的が災害対策のためだけでないことは明白です。


導入した大型のリーマス600は母艦に、小型の100は101掃海隊が装備して
その後研究が進められたということでしたので、ここで見せてもらったのは
状況的に大型のリーマス600ではないかと思われます。

ちなみに、リーマス「REMUS」(レムス)はローマの建国神話に登場する
ローマの建設者で、マルス(軍神)の血を引く双子の片割れの名前です。

「アイギスの盾」→イージス艦

「ファランクス」(古代において用いられた重装歩兵による密集陣形)→CIWS

「エクスカリバー」(アーサーの剣)→英国の駆逐戦車

など、架空の武器やギリシャ神話、ローマ建国神話の固有名詞は
武器開発会社にとって格好のネーミングの宝庫ってことですね。

 

見学は終了し、ラッタルを降り、バスに乗り込みました。

「ぶんご」舷門ではこのように敬礼でお見送りしてくれています。
サイドパイプを吹鳴していますが、これはこちら側の案内役として、
海幕から海将補が来ておられるからであり、決してわたしたちのためではありません。

向かいにいた艦の舷側からも一斉に敬礼が送られました。

さて、「ぶんご」でたくさんお土産をいただきましたので、
最後にこれをご紹介したいと思います。


説明に使われた掃海隊についてのパンフレットのほかは、
この立派な装丁がされた甲板での集合写真、

(見学している間に現像ができていた)それから・・・

タオル。
前にも一度掃海隊訓練の時にタオルをいただきましたが、
その時のも、今回も大変実用的で質のいい製品なのが嬉しい。

このまま掛けて飾れるようになっていますが、実は手ぬぐいです。
バラしてしまうのが勿体無いのでまだこのままおいてあります。

一番「ウケた」のがこれ、係維機雷を模したキーホルダー。
ちゃんと設置されている状態がわかるようにイラスト付きです。

機雷の部分には本当にトゲトゲが付いています。
隊司令が皆にこれを渡すときに、

「ズボンの後ろポケットに入れないでください。
うっかり座るとお尻に棘が刺さって痛いので」

掃海隊群、確実に狙ってきてます(笑)


たっぷり時間をかけて艦内を周り説明を聞いた上、お土産まで。
大変充実した見学をさせていただいた掃海隊のみなさん、
どうもありがとうございました。