かつてのひまな野球人の記

野球が好きだった医者が書きたいことを書き散らすブログ。今は保健センター教員をしつつ神経内科医と研究者もやっています。

体の中に入った酒

2007年08月30日 18時49分32秒 | 雑談
酒を酒たらしめているのは無論アルコール(エタノール)である。エタノールは体内でアセトアルデヒドに代謝され、さらに酢酸に代謝される。このアセトアルデヒドを酸化して酢酸へと変える経路を触媒する酵素の活性が、いわゆる酒の強さを規定している。しかも、この酵素は4量体で1つでも変異型が入ると機能しなくなるため、2つとも野生型遺伝子の人と変異型遺伝子を1つ持つ人では活性を持つ酵素の比が16対1という圧倒的な比になってしまう。もちろん、この活性はエタノールの薬理作用に何ら影響を与えないため、エタノール自体の影響は別の酵素活性によって規定されるといえる。
面白いことに、変異型遺伝子を持っているのはモンゴロイドだけで、いわゆる白人と黒人は全員が野生型遺伝子の持ち主らしい。つまり、酒を飲むとすぐに顔が赤くなるようなのは日本人を含むモンゴロイドだということである。私も野生型と変異型のヘテロである。そのため、酒を飲むとすぐに顔が赤くなり、しかも早々に2日酔いの症状が現れる。今のところ、翌日の朝に2日酔いになったことはほとんどなく、その日の夜に苦しむ例がほとんどである。このタイプはアセトアルデヒドが長時間体内に留まる関係上、アルコールによる細胞の変異が現れやすいとされている。つまり、飲酒による咽頭癌などのリスクが高まるということらしい。
ゆっくりと酒を楽しめる人がうらやましい。酒は好きだが、酔うのは好きではないからである。たった1箇所のアミノ酸の変異がこうなるのだから面白いものである。