東(ひんがし)の野に炎(かぎろひ)の立つ見えて
かえり見すれば 月傾きぬ
万葉集巻一 48 柿本人麻呂
一昨年撮影した写真データをつらつらと見ていたら、この“かぎろひ”を写した一枚があったことに気づきました。
2009年12月9日の早朝、自転車に乗って奈良 東大寺へ向かう途中のこと、まだ薄暗かった空が、春日山を望む東の方から徐々に夜明けの色を見せ始めました。
普段よく見る朝焼けとは明らかに違う、なんとも不思議な空の色彩に見とれ、ショルダーバッグの中に入れていたCONTAX T2を取り出すと、その場で写真に収めました。
“かぎろひ”とは、冬の寒い朝、快晴の東の空に見られる太陽光のスペクトル現象で、紺色からとオレンジへと移り変わる鮮やかなグラデーションのこと。
普段使っているデジタル一眼レフではなく、フィルムならではの情緒溢れる色彩の描写が、あのときの記憶を、ありありと思い出させてくれました。
正確な色彩再現性に優れたデジタルとは違う、フィルム特有の味わいって、やっぱりどこか不思議な魅力があるんですよねぇ…。