Kimama Cinema

観た映画の気ままな覚え書き

ミツバチのささやき

2015年11月12日 | 1980年代 欧州

ミツバチのささやき (原題:El espíritu de la colmena )

1985年 スペイン
監督:ビクトル・エリセ
製作:エリアス・ケレヘタ
脚本:ビクトル・エリセ、アンヘル・フェルナンデス・サントス
出演:アナ・トレント、イザベル・テリェリア、フェルナンド・フェルナン・ゴメス、テレサ・ヒンペラ
撮影:ルイス・カドラード
編集:パブロ・ゴンザレス・デル・アモ
音楽:ルイス・デ・パブロ


1940年代のスペイン・カスティーリャ地方。内線後の小さな村での物語。まるで絵画の中の風景や人物がそっと動きだしたような、叙情的で美しい映像が流れる。セリフは多くないけれど、映像だけが静かに、雄弁に家族の姿を語っていく。巣箱の模様なような窓ガラスの家。精霊を探す子ども。絶え間なく羽ばたくミツバチたち。悲しげな表情で手紙を綴る若い母。ミツバチをじっと見つめる年老いた父。

“報われない努力。・・・巣室を離れれば休むことはない。幼虫もまもなく労働に明け暮れる。”なんて独白を、幼な子の寝顔に重ねるなんて、ずいぶん意地悪だと思う。厭世的な雰囲気の漂う両親とはうって変わって、アナとイザベルの小さな姉妹の会話や仕種は、とてもかわいらしい。

トラックで町にやってきた移動映画は『フランケンシュタイン』を上映し、子どもたちは夢中になって見た。夜、ベッドの中でアナは、姉のイザベルに尋ねる。「なぜ怪物は少女を殺したの? なぜ怪物は殺されたの?」 イザベルは、怪物は精霊のようなもので、仮の姿だから、殺されることはない。友達になれば、いつでも呼べば来てくれると、アナに教える。その言葉をアナは深く心に刻む。彼女が執拗に求めているのは、いつでも寄り添ってくれる存在。その幼い心にどれだけの寂しさを抱えているのだろう。

国中が荒れた大きな戦争の後に残った、暗く沈んだ空気。幾多の人たちが負った深い傷痕。大人たちの心に宿る闇は、何も知らない幼い子どもたちをも包み込む。

アナは近所の廃墟に潜んでいた男を、自分が見つけた精霊と考えて、食糧や衣服を差し入れる。男はすぐに追っ手につかまって殺されてしまうのだが、アナはイザベルから聞いた話を思い返して、精霊を呼び出そうとする。

小さな姉妹がささやきあう声は映画のタイトルとぴったりだと思うけれど、静寂を壊すのを恐れるように進んでいく物語だけに突如として響く呼び声には、いつもハッとさせられた。広く高い空に、家族の名前を呼ぶ声が響く。帰宅した夫が留守中の妻の名を呼び、妹は床に突っ伏したままの姉の名を呼び、父が走り去っていく子どもを呼びとめようとする。

草原に吹く風の音に混じって、声だけが耳の奥にずっと残る。ひどく遠くから、自分の名前を呼ばれているような錯覚に陥る。家族たちがそれぞれに抱えている寂しさがそっとよぎっては、風のように混ぜかえされる。


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