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ケースバイケースと原理主義

2018-09-16 22:21:32 | マスメディア
 塩野七生氏「ローマ人の物語」にはローマ人の特質としてケースバイケースの考え方があると書かれている。ケースバイケースの考え方とは、極論すれば、その場その場で原則や理念にとらわれない方法で解決を図るということである。これの対極にあるものが原理主義である。どちらも極端な形は一般に現実的でない。原則や理念があまりに軽視されると法さえも機能しにくくなり、無法者の天下となりかねない。原理主義はイスラム原理主義が示すように厳格な息苦しい社会となりやすい。まあ両者の中間に適切な位置があるのだろう。

 ケースバイケースの考え方は現実重視の考え方でもある。逆に原理主義は現実を軽視しても理念を守ろうとする立場である。身近な例を挙げると、時代が変わり、国際情勢が変わっても憲法9条を死守しようとする考え方があるが、これはもう原理主義と呼んでもよいと思う。ある環境保護団体は標高約1000mの比良山にある鉄筋コンクリート3階建ての宿泊用建物を廃業に際して完全の原状回復するよう強硬に主張した。業者は仕方なく全部を破砕の上、半年かけてヘリで麓まで運んだが、多量の燃料を使い(ヘリは1時間で数百リットルのガソリンを食う)、約4億円かかったという。これが自然に優しいか、ちょっと考えればわかることである。これも原理主義に近い。

 民主主義、環境保護などの抽象的な理念を作り、様々な事柄をそれに照らして是非を判断していくことはとても有効な方法である。個々の事象に対する判断が機械的にできるため、頭の負担が少ない。頭を使うことが嫌いな人に向いている。ただ一部の人達は極端に走り、現実を軽視してまでそれを頑なに守ろうとする、困ったことがしばしば起きる。思い込みやこだわり傾向が強い性格の人によく見られる現象で、度が過ぎると非現実的な判断をしやすい。従って生来的なものかもしれない。

 ローマ軍は兵站(ロジスティクス)で勝つ、と言われたそうだ。兵站とは武器や糧食など戦争に必要なものの補給のことであり、そこにはローマ人の現実的な考え方がある。これに対し、旧日本軍は精神で勝つとされ、兵站を軽視したと言われた。精神で勝てればこんな安上がりなことはないが、たいていは成功しなかった。妙な精神論のために現実を正確に認識できなかった例と言ってもよい。

 憲法9条を素直に解釈すれば自衛隊は違憲と思う。合憲という解釈は実に無理やりだと思うが、防衛の現実的な対処法となっている。一方、9条死守の立場は憲法を重視して自衛隊を違憲とし、非武装などを主張する。それを正当化するため日本を攻撃する外国はあり得ない、などと現実の方を歪めてしまう。現実を憲法に無理やり合わせようとするのだから面白い。

 〇〇主義、〇〇教を強く信じる人たちは少なくない。信じ過ぎると現実との乖離が生じ、滑稽に見えることもある。彼らにこそ、ローマ人のケースバイケースという考え方を知ってもらいたいものである。まあ、ふだんは法や原則に合わせる、しかし時には違法・反則をするというくらいがいい。なぜなら〇〇主義や法に100%の完全はないのだから。とはいうものの真面目な人、頭の固い人にはちょっとハードルが高いかもしれない。


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