噛みつき評論 ブログ版

マスメディア批評を中心にしたページです。  姉妹ページ 『噛みつき評論』 もどうぞ(左下のBOOKMARKから)。

なぜか低調な温暖化報道

2015-08-24 08:00:01 | マスメディア
 ピュリツァー賞を受賞したジャレド・ダイアモンド氏の著書『銃・病原菌・鉄』は地理学や生物学などの立場から世界各地の文明の盛衰を説いたものです。幅広い知識に裏付けられた独自の見解はとても興味あるものでした。朝日新聞による識者アンケートでは2000~2009年の本の中で1位に選ばれました。

 福島原発事故後の2012年1月、朝日新聞はそのジャレド・ダイアモンド氏にインタビューした記事を載せました。ところがダイアモンド氏は「温暖化のほうが深刻、原発を手放すな」と主張しました。原発反対の朝日はこの部分だけを削除するわけにはいかなかったのでしょう。それまで持ち上げてきたダイアモンド氏に原発を肯定されるという、薮蛇の結果となりました。

 21日の朝日には小さな記事が載りました。要約すると、米海洋大気局は20日、今年7月1カ月間の世界の平均温度が、記録の残る1880年以降で最高となる16.61度に達し、今年1月以降の7カ月間の平均温度も、史上最高だった10年の記録を更新、15年の世界の平均温度は14年を抜いて史上最高となる可能性が高いと発表した、というものです。

 温暖化には異論もありますが、地域的な個々の現象ではなく、世界の平均温度が史上最高となれば温暖化の強力な証拠となります。しかし大きく報道されることはありませんでした。

 数年前、福島第一の事故以前、地球温暖化は報道の主要なテーマでした。高温が続いたり、異常気象が頻発するとしばしば温暖化との関係が指摘されました。ところがこの夏は異常な高温、近海でのサメの出没、特定種の漁獲量変動など、気候との関連が疑われる現象が次々と起きたにもかかわらず、温暖化との関係が論じられたりすることはほとんどありませんでした。熱しやすく醒めやすいとの定評があるメディアは温暖化に飽きたのでしょうか。

 昨年の9月21日、ニューヨークでは温暖化対策への取り組みを訴える40万人規模のデモがありました。米国における温暖化への関心は強く、日本とは大差があるようです。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第5次評価報告書では温暖化については「疑う余地がない」とされています。

 日本のメディアはなぜ温暖化の報道をしなくなったのでしょうか。朝日については原発との関係が疑われます。つまり温暖化の懸念が広がるとCO2を出さない原発の優位性が注目され、原発反対の機運を殺ぐことになる、という理由が考えられます。そうならばこれは立派な情報統制です。民主主義の基本である国民の判断を信用せず「由らしむべし知らしむべからず」(*1)という傲慢さが見えるようです。

(*1)論語から。人民を為政者の施政に従わせることはできるが、その道理を理解させることはむずかしい。転じて、為政者は人民を施政に従わせればよいのであり、その道理を人民にわからせる必要はない(デジタル大辞泉)。