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控訴を勧める裁判員裁判

2010-11-25 10:24:52 | マスメディア
 11月16日横浜地裁で裁判員裁判初の死刑判決が出ました。意外であったのは、判決を読み上げたあと裁判長が「重大な結論なので、裁判所としては控訴することを勧めます」と述べたことです。

 この理由については、裁判員の精神的負担の軽減を図ったもの、との見方が多くあるようです。つまり最終的な決定を上級審に委ねれば、裁判員が死刑を決定したという重圧から逃れることができるという意味だと思われます。しかしそれでは判決の意味を自ら軽んじることになります。

 「控訴することを勧めます」という発言は、自ら決定した死刑判決を否定するよう被告に勧めることです。自分達で決めた判決には従わない方がよい、とも解釈できるわけで、たいへん不思議なことです。よほど判決に自信がないのでしょうか。

 また多数決で死刑が決まったが、裁判長は反対であったので裁判長個人の意見を控訴の勧めのメッセージに込めたということも考えられますが、意見をまとめるのが裁判長の役割ですから、これもおかしいと思います。

 そもそも裁判員制度は市民の常識を取り入れることで、より適正な判決が得られるという考えから生まれたものです。裁判員裁判による判決は職業裁判官だけによる判決より適正で、尊重されるべきだとされ、検察側の控訴も制度が始まって以来わずか2件に抑えられています。

 少なくとも形の上では尊重されている(させられている?)裁判員裁判ですが、被告に控訴を勧めることは裁判長が裁判員裁判をあまり信用せず、上級審の判断を信頼しているとも理解できます。これは素人による裁判員制度の否定につながります。裁判長の真意を知りたいところですが、その術はありません。

 この「控訴お勧め付き判決」は裁判員制度を揺るがすほどの問題を含んでいると思いますが、そのわりにはあまり議論が起きないのが不思議です。その理由は、多くのメディアが裁判員制度を支持していて批判的な姿勢が弱いこと、及び裁判員に課せられた守秘義務のために評議の情報が外部に出てこないことなどにあると思われます。

 裁判員制度は法施行後3年を経過した時に見直しが予定されています。これはやってみなければわからん、という部分があることを認めているわけで、まあ現在は試行期間という位置づけです。議論が低調であれば、いつのまにか内部だけで見直しが行われ、裁判員制度のときのように、突如として最終決定だけが発表されるということになりかねません。