噛みつき評論 ブログ版

マスメディア批評を中心にしたページです。  姉妹ページ 『噛みつき評論』 もどうぞ(左下のBOOKMARKから)。

メディアが作るイメージと現実の乖離

2007-06-20 22:36:21 | Weblog
 浜井浩一・芹沢一也 共著「犯罪不安社会」(光文社新書)は一般の犯罪に対する認識と犯罪統計がいかに異なるかを示した本である。なかなか説得力のある本であり、一部を紹介する。

 内閣府の「社会意識に関する世論調査」によると「治安が悪い方向に向かっている」と考える人は98年は約19%であるが05年には約47%になっている。実はこの期間、殺人事件は減少傾向が続いている。

 また85年から03年にかけて殺人事件の件数は、85年を100とすると一貫して100以下であるにもかかわらず、朝日新聞の殺人記事数は増加し、同じく85年を100とする指数では00年と03年には500近くになっている。約5倍もの殺人記事を読まされたら誰でも治安が悪くなっていると誤解するだろう。「良識の朝日」でこの程度だから、「非良識」のテレビはもっとひどいのではないか。

 6月4日の日経夕刊に興味深い記事がある。医療についての相談を受け付けているNPO法人「ささえあい医療人権センター・コムル」によると、年ごとの医療事故に関する新聞記事件数と医療不信が強い相関関係を示したというのだ。

 医療事故のニュースが頻発すると、患者は医療に不信感を持ち、医師との信頼関係も損なわれる。そして訴訟の増加を招き、産科などではそれが医師の減少要因のひとつともなる。これを単に報道の副作用として、仕方がないものとして理解すべきなのだろうか。

 現在の日本の人口は1億3000万人ほどである。もしも人口が1300万人なら親殺しも子供虐待も凶悪殺人も医療事故も発生件数は10分の1になる。おいしいネタが減ると、メディアは仕方なく万引きや窃盗など小ネタを中心に載せざるを得ないだろう。その結果、日本は安全で、医療が信頼できる国だということになる。

 読者・視聴者は、意味のある犯罪率や医療事故率にはあまり関心がなく、メディアの提供する印象で判断する。安全かどうかの指標はあくまで人口比で示される犯罪率なのだ。しかし、猟奇事件のようなおいしいネタは膨大な報道がされる結果、それを身近に感じてしまう。そして日本は安全な国ではなくなったという見当違いの議論まで現れる。

 また同じ事件でも犯人が政治家や高級官僚、実業家など、高い社会的地位を持つ者の場合、報道は熱を帯びる。したがって高い社会的地位を持つ人間は悪いことをする奴が多い、などと誤解する者が出てくる。

 以上、述べたように様々な理由によって、メディアによって作られる暗いイメージと現実は乖離していく。そして暗いイメージは様々な悪影響を社会にもたらす。一部の冷静さを欠く人たちは治安が悪くなったと、凶悪犯罪に怯えながら生きているだろう。また医療の例で示したように、不信感を持ちながら医療を受けるのは気持ちのよいものではない。一般の人にとっても犯罪や不祥事がいっぱいの暗い社会というイメージの下で生活するのは愉快なことではない。

 政治団体「9条ネット」から参議院選挙に出馬予定の元レバノン大使の天木直人氏は「今日の日本の崩壊を招いたのは5年半の小泉政権にある」と発言されている。どういう見方をすれば日本が崩壊していると言えるのか、私には全く理解不能だが、氏は日本が崩壊していると認識している連中が少なからずいるという認識の上で、この発言をされたのだろう。特定局のコメンテータの言葉をまともにとっていたらこんな認識が生まれるのだろうか。理解不能だが、怖い話である。