噛みつき評論 ブログ版

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NHKの不二家事件への対応・・民放と変わらない

2007-06-15 15:43:16 | Weblog
 1月30日のNHKのクローズアップ現代が「ペコちゃんが泣いている」と題して不二家事件を採り上げていた。テレビ報道のあり方として気になった部分があったのでご紹介したい。記憶によっているのでやや不正確な点があるかもしれないことをお断りしておく(間違いのご指摘をお願いします)。

 ①不二家の食品を食べて食中毒を起こせば死者が出るかもしれない、という意味の専門家の発言を放送した。

 死者が出る確率はゼロとはいえないからウソではない。しかしこの番組でこんなことを言わせれば必要以上の恐怖を招く。確率を無視した話なのだ。あなたは道を歩いても交通事故で死ぬかもしれない、或いは隕石に当たって死ぬかもしれない、などとわざわざ指摘するようなものだ。しかし交通事故の場合はおよその確率(約1/20000、05年は約7000人死亡)を知っているし、隕石が当たる確率は無視できると知っているから、指摘されても冷静でいられる。だが食中毒で死ぬかもしれないと云われると確率がわからないだけに恐ろしいと思う人が出てくる。食中毒による全国の死亡者数は厚生労働省の資料によると05年で7人である。食中毒を心配するより交通事故の心配をする方が1000倍ほども理に適う。

 ②異物の混入クレームがこの1年間で一六百余件と言うことを強調していた。
 これが多いか少ないかは同業他社との規模を考慮した比較がなければわからない。異物混入を完全になくすことは現実には無理である。半導体工場並みのクリーンルームにして、作業員全員を丸坊主にでもしない限り、ゼロにするなどできない。もしやればコストは何倍にもなる筈だ。

 ③顔を隠した元従業員を登場させ、以前床に落ちた原料を拾って入れた、という証言を放送した。
 このやり方は悪徳不二家という印象を与えるのに大変有効だが、真偽の判断が難しい。会社に恨みを持つ証言者を集めるのはさほど困難ではないし、それがやらせであっても、証言を否定するような反証がまず見つからないため、制作者は安心して使うことができる。この元従業員の証言には確かな裏づけがあるのだろうか。またこの程度のことは他社では絶対ないと云えるだろうか。また街頭の声も「裏切られた」「許せない」の二つだけの採用だ。

 クロ現は不二家をより悪く見せるという意図の下に作られていることがわかる。しかもその手法は公正とは云えないものが含まれる。今までクロ現はよい番組を多く作ってきただけに、民放に横並びの迎合姿勢をとったことは大変残念である。

 翌朝、初めてTBSの、ワイドショーを見た。稼ぎまくることで有名な司会者、みのもんた氏は眠そうな顔で、不二家をあれこれ非難した後、異物の混入クレームがこの1年間で一六百余件という表示板に、大袈裟に(私にはわざとらしく見えた)驚いて見せた。そして「この会社は社会に存在する価値がない」とまで言い放った。彼の厳しく不寛容な態度は彼自身が非常な潔癖な人物であるためか、それとも彼が偽善者であるためだろうか。いや、本当のところは視聴者のルサンチマン(弱者の強者への妬みや憎悪)を意識した人気取りの態度だろう。

 不二家がマニュアルを直し、材料の期限を守るなど標準的な品質管理が出来るようになるのはそんなに難しいことなのか。会社が潰れるほど痛めつけないとできないことなのだろうか。重ねて言うが、中毒者を1人も出していないのに、これほど叩く必要がどこにあるのだろう。不二家を叩く理由が、読者を驚かすことで視聴率を上げるというメディアの属性にあるというのであれば、なんともやりきれない。 単に視聴者の好奇心を満たすための報道が経営危機を招き、さらには罪のない失業者を生み、フランチャイズ店を苦境に陥れるという事態を憂慮する。

 採り上げた二つの報道には上品・下品の違いはあるものの、意図的な必要以上の攻撃という点では共通だ。このような報道を毎日聞かされては、不二家はとても許せない、と思ってしまう人が多くなるだろう。公共放送をも含んだ付和雷同メディアの怖さとアホさを改めて思い知った。水に落ちた犬を叩くというが、それも謝罪している犬を大勢で叩くのだ。見ていて気持ちのよいものではない。よってたかってペコちゃんを泣かせているのはメディアなのだ。

 私は不二家を擁護したいのではない。ただ報道の意義を問いたいだけだ。常に報道の意義と報道が招く結果を優先してもらいたいと思う。視聴率はその次でいい。再教育を望みたいのは不二家よりむしろメディアの編集者達である。