日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

ゼンシショーに学ぶカリスマトップと監査役のあるべき関係

2014-08-01 | 経営
「すき家」の労働環境改善に関するゼンショーが発足させた第三者委員会が調査報告書を取りまとめ、その内容が公開されました。
http://www.sukiya.jp/news/tyousahoukoku%20A_B.pdf

私も中身を読んでみました。「過重労働」「サービス残業」「社員のプライベート喪失」「一人勤務体制(ワンオペレーション)」「休憩時間の非付与」「限度を超えた休日労働」「年少者の深夜労働及び賃金不払い」等々、同社の「現場の労働実態」を見る限りにおいては、ファーストフード業界において考え得る劣悪な労働環境をもれなく網羅したと言った感が強く出た、実にストレートな実態報告であるなと感じました。

報道では春先から様々な話題を提供してきたワンオペレーションを中心として、これら労働実態と改善方向にスポットが当てられがちなのですが、私個人が考えるレポート最大の着目点は「現場の労働実態」の次に報告されている「ZHD(ゼンショーホールディングス) 社・Z(ゼンショー) 社本部による労働実態の把握・共有状況」部分にこそあると思いました。この部分にはすべてのオーナー企業、ワンマン経営企業の経営者が読みとるべきワンマン経営の正しいあり方とはいかなるものであるのか、それを考えるための大きなヒントがあると感じさせられるのです。

この報告書を読む限り、同社が問題を放置しより深刻な状況に追い込まれた最大の原因が、創業者でかつオーナーであるカリスマ経営者小川賢太郎社長のワンマン統治にあることを疑う余地はありません。一言でいうなら、経営者の統治力、発言力が強すぎるがために幹部社員は皆「上へならえ」状態であったと。社長のクビに鈴をつけるものがいない状態、すなわち一種の独裁統治。コンプライアンス意識も、過酷な労働実態も、業績重視の経営管理下において、経営者が重視していない事柄に関してはすべて見て見ぬフリがまかり通ってしまっていたのだと、報告書は如実に物語っているのです。

「問題解決のための抜本的な対策が取られた様子は見受けられない。こうした事実は、売上等につながらない業務については、各自がそれぞれの立場から正論を言うだけで、具体的なアクションにはつながらない、というすき家カンパニーの特徴を示す一例と言える」
(4.ZHD 社・Z 社本部による労働実態の把握・共有状況より)

まさしく、組織運営における自浄作用の欠如です。何がいけなかったのか。注目すべきは、組織が誤った方向に向かわないための最後の砦となりうるべき監査役です。業務監査をし取締役会に改善を進言しその進捗を監視すべき監査役が正しく機能していなかったということも、本報告書からは如実にうかがい知れます。

「ヒアリングにおいてZ (ゼンショー)社の監査役が、「[過労死リスクについて]真剣に考えていればもっと対策を打っていたと思う。……深い思いは正直無かった」と述べた」
(4.ZHD 社・Z 社本部による労働実態の把握・共有状況より)

さらに親会社で監査役会設置会社であるZHD(ゼンショーホールディングス)においても。
「2014 年3 月に起きた多数の店舗のイレギュラークローズについて、常勤監査役は平田氏(2014 年3 月時点のすき家カンパニーのCOO)からヒアリングを行い、経緯を確認しているものの、経緯を確認したにとどまり、監査役会において対応策を議論したり、取締役会に対して報告・指摘が行われた形跡はなく、また、前記内部監査報告書の指摘事項に対してZ 社がどう対応したかの確認が行われた形跡もない」
(4.ZHD 社・Z 社本部による労働実態の把握・共有状況より)

問題の発生の原因を突き詰めて再発防止をはかることは、大変重要なことではあります。しかし、既に発生している問題を発見し原因を究明しようとも、それを放置してしまう文化が組織に根付いていたのなら、何事も改善しないどころか悪化の一途をたどるばかりなのです。組織における自浄作用は、組織内の幹部社員がトップを盲信しがちなワンマン経営であればあるほど重要になるのです。

現状の組織管理が果たして正しい方向の向いているのか、方向修正すべき点はないのか等々、「裸の王様」になりがちなカリスマ経営者にとって組織を健全に運営させられるか否かは、誰かが耳の痛いことをトップに進言できるか否かにかかっています。そして、経営陣とは一線を画すべき監査役こそがその役割を担うべきであり、ワンマン統治の企業において監査役が機能するかしないかは、企業の健全経営のカギを握っていると言っても過言ではないのです。

監査役が機能するかしないかを決める重要なポイントは、監査役の人事権とその報酬が会社法に定められた通りに適正に運用されているか否かでもあります。特に監査役会設置における監査役報酬は、その総額を定款または株主総会で決め金額の割り振りについては監査役相互の話し合いで決めることとされています。すなわち、監査役は経営者の指揮命令下にはないとの証です。しかしながらこのルール、実態として一般に守られているとは言い難いのです。すなわち、ほとんどの企業で個々の監査役の進退もその報酬はトップが決めているのではないかと。

監査役の進退や報酬をトップが決めると言うやり方になるなら、監査役は他の幹部社員と同じくカリスマ経営者に対して「上へならへ」になりやすく、トップの耳が痛いことを進言するような流れには決してならないのです。ゼンショーも恐らく監査役は経営トップの実質指揮下にあったのでしょう。ワンマン企業の組織運営に自浄作用を働かせ健全な経営を形づくるためには、本当の意味で監査役を独立した存在にする必要があるのです。

その昔は「閑散役」などと揶揄されてご褒美ポジション的な色合いが濃かった監査役ですが、今や組織運営における扇の要であるといっても言いほどに重要なポジションであるとの認知が徐々に広まってはいます。しかしながら、まだまだ監査役を自分の部下として扱うワンマン経営者が多いのもまた事実であります。ゼンショーの第三者委員会の報告を読ませていただき、監査役が機能するか否かがワンマン企業の浮沈のカギを握っていると言っても決して過言ではないと新ためて実感させられた次第です。