日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

前時代的「医療現場=医薬企業癒着」解消を急ぐべきと思う件

2014-04-05 | 経営
東京大病院など22施設が行った白血病治療薬の臨床研究に販売元のノバルティスファーマ社員が関与していた問題で、社外調査委員会の報告書により社員が患者の重い副作用の情報を知りながら国に報告しなかったり、事務局機能を代行していたりしたことが判明。関係書類を廃棄する隠蔽工作が行われていたことも明らかになりました。

当事者であるノバルティスファーマはスイス本社からエプスタイン社長が来日して謝罪会見し、日本法人のトップ3名を外国人経営陣に入れ替えをすることで組織風土を刷新することを明らかにしました。これを受けて田村憲久厚生労働相は、薬事法に基づいて業務改善命令等同社の処分を検討する考えを表していますが、私は問題の核心はむしろそこではないように感じています。

私は医療業界の専門家ではありませんが、知り合いの医師から漏れ聞く現場の話も含めて勘案するに、この問題の根源はノバルティス社の組織内だけにあるのではなく、組織外、いわゆる業界に起因する根深い問題に係る部分がより大きいのではないのかと思うのです。すなわち、医療現場における前時代的ヒエラルキーと、医師と業者の間にある絶対的な主従関係がそれです。これは医師の世界だけではないのですが、「先生」と呼ばれる人たちを必要以上に崇め、彼らに不要に高いプライドを植え付けてきた日本的風潮の弊害がその背景にあると思っています。

それによって生まれる「接待漬け」「アゴアシ付」が今だに当たり前におこなわれ、医療現場を覆う「ごっつあん体質」が業者丸抱えの臨床実験を当たり前にし、業者と医療現場との癒着関係による今回のような便宜横行のコンプライアンス違反を生んでいるのではないかと思うのです。まず正すべきは医師の襟元であり、日本的「先生」意識の払しょくこそが大切なのではないのでしょうか。そのために今監督官庁がすべきことは、個別企業の粛清指導よりもむしろ、医療機関と医薬関連企業の関係の厳正化であるように思えています。

この問題の構造は、15年ほど前に世間をに騒がせた官僚接待問題に酷似しているように思います。旧大蔵省官僚接待疑惑を事の発端とした騒ぎは、官民接待が民間と行政の不純な癒着を生みだしているものとして、国民の利益を最優先で考える立場から利害関係者間の贈答・接待を全面的に法で禁止するに至りました。官僚改革の第一歩とも言える意識改革への着手であり、私はこの改革は元金融機関の一員として大蔵省担当をした立場からも、あるべき官僚の民間との接し方の確立に向けて大きな効果があったと思っています。

医療機関の多くは民間であり、医薬関連企業との民間同士の関係を法で縛ることは市場原理に行政が介入することにもなりかねず、慎重な姿勢が求められるのは間違いありません。しなしながら、医療機関が民間とは言え国民の生命、健康を預る立場である以上は、一般的な民間企業とは異なる基準での自制および管理・監督が必要なのではないでしょうか。

謝罪会見に臨んだノバルティス社のエプスタイン会長は、「日本は製薬会社と医療・研究機関が密接に協力し合う、世界的にも異質な社会である。これにより他国と比べて医師を優先する傾向を、患者優先の方向に変える必要がある」と述べたそうです。この発言こそ本来は厚生労働大臣の口から出されるべきものであり、政府厚労省は今回の問題を一企業の不祥事として捉えて終わるのではなく、日本の医療業界に根付いている諸悪の根源的悪しき風習の刷新に向けて、大きく舵を切るべき絶好のタイミングとして捉えるべきなのではないかと思う次第です。