日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

オリンピックでまたしても起きた管理不在の悲劇

2014-02-13 | 経営
オリンピックにおける「周囲=管理者」の冷静な判断の重要性についてです。女子モーグル伊藤みきさんの話です。本当にかわいそうでした。せっかくソチまで行きながら、練習で負傷して運ばれ、棄権⇒帰国の憂き目に。これはもう本人の責任ではなく、指導者の管理の責任が全てであると思います。

伊藤みきさんは昨季世界選手権で2位となるなど躍進し、全日本スキー連盟で女子ジャンプの高梨沙羅らと並んで4人しかいない「特A」強化指定選手に指名され本番でのメダル獲得に大きな期待がかけられていました。しかし、昨年12月練習中の着地失敗で、右膝の前十字じん帯が「55%が切れていた」という重篤なケガを負ってしまいます。医師からは手術で全治8カ月と診断されたものの、手術をすればオリンピック出場は断念せざるを得ないと、本人は「周囲」と相談して手術をせずにオリンピック出場の道を選んだのでした。

結果論ではないかと言われるかもしれませんが、私は「周囲」の判断、特に管理者たるコーチの判断、ケガ発症後に代表選考をおこなった日本スキー連盟の判断は明らかに誤っていたと思います。本人が昨年ケガ後の会見で、「金メダルを取るためにやってきたので目標を変えたくない」と発言した時にも個人的には、絶対にやらせてはいけないと思いました。もちろん、本人がオリンピック出場に意欲を見せたのは、アスリートとして当然の選択であり、それを非難する気は毛頭ありません。しかし管理者や管理団体が一緒になってその判断において冷静さを失っては、その役割を全く果たしたことにならないのです。

本人の将来を思えば、重篤なケガを負った選手の出場を管理者が認めること、所属団体が代表選出することは全くもって誤った判断です。リスク管理は、「管理」業務の中でも特に重要性の高い存在です。これは会社組織においても同様ですが、高所大所からモノを見るべき立場の人間が冷静さを失わずに行えばこそ正しいリスク管理が可能になり、事業は安定して推移し、人材は順調に育つのです。伊藤さんのコーチや、所属団体である日本スキー連盟は、厳然と存在する大きなリスクに目をつぶって目先の利益を追求する愚かな企業と同じく、明らかに冷静さを欠いた愚かな判断をしてしまったと言えるのです。

スポーツにおける管理者のリスク管理意識の欠如については、冬季五輪前大会のフォギュアスケート男子織田信成選手のスケート靴ひも切れの時にも同じことを申し上げました。一度本番前に靴ひもが切れていながら、「靴紐を新しいものに変えて結びなおすことで、靴を履いた時の感触が履きなれた感触から変わってしまうことを避けたかった」とコーチ承認の上でそれを結び合わせて演技をしたことで、メダル獲得目前の演技中に再び靴ひもが切れ取り返しのつかないミスにつながったのです。
◆織田信成選手の“靴紐”に見る「危機管理」の誤り
http://blog.goo.ne.jp/ozoz0930/m/201002

管理者のリスク管理不在の教訓は、今回も活かされませんでした。本当にかわいそうなのは、伊藤選手本人です。けがの痛みは治療に専念し、回復に努めることで癒えることになるのでしょう。しかし、今回ソチに行きながら試合を前に出場を断念せざるを得なかった心の傷は、事前に出場断念した場合の何倍も深く長く刻まれ、本人の今後にも少なからず影響を及ぼすことでしょう。またしても起きてしまった、愚かな管理者のリスク管理不在に起因する悲劇に、なんとも言えない後味の悪さばかりが漂っていました。