日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

小泉行動に“老害”会長を見る思い、ってありません?

2013-11-22 | 経営
小泉純一郎元首相が話題です。8月に原発ゼロ発言が毎日新聞に取り上げられ、今月には日本記者クラブで講演をおこない、ここでもメディアの期待の応える形で原発ゼロを強く訴えますます渦中の人に。私はこの問題は静観を決め込んでいたのですが、政治的な話や主張の中身は別にして、私の仕事関係でも似た風景をよく見るなと思ったので、そのあたりの視点でちょっと書いておくことにしました。

念のためお断りしておきます。本稿は原発ゼロの是非を問うものではなく、在職時に国民の支持率が著しく高かった元首相の存在感誇示行動に対して、組織マネジメントに照らし私が知る類似例から氏の深層を推察してみたいと思ったまでです。その点を誤解なきよう、この先を読み進めていただきたく思います。

私がこのところの小泉氏の言動を見て似た光景として思い浮かんだのは、創業者もしくは企業発展の功労者たる元社長であるところの会長あるいは相談役が、実権ポジションを退いた後に非公式ルートで現社長の経営方針を批判するような発言を社内に対している姿です。よくある例は、二代目社長曰く「創業者の親父が、『社長のイスはお前に譲った』と言っていながら、時々社員に僕の方針と異なるやり方を吹いて回っているんだよ。やりにくくて仕方ない」、というパターンです。

最近もある会社でまさしくそのような“事件”が起きました。創業の会長にその真意を質してみると会長の言い分は「社長のおかしなやり方をほおっておけん」なのですが、「なぜ社長に直接言わないのですか」と尋ねると、「直接言うのは角が立つ、社員が私の考えに同調してくれるなら本人も思い直すだろう」と。私は、思い切ってこうぶつけました。「会長、そのやり方は間違っています。おかしいと思われるなら、直接ハッキリ言うべきです。組織運営がおかしくなります。もしかして組織上実権のなくなった今でも、会長は社員に自分の存在感を示し影響力を保ちたいと思っているんじゃないですか」。

私の遠慮ない物言いに会長の顔はみるみる紅潮し、「何を言っているんだ、君は!」と一言大きな声を発したものの、その後しばらく黙りこんでしまいました。しばし間があってポツリと言ったの言葉は意外にも、「大きな声を出してすまなかった。そうか老害か。私もヤキが回ったようだ」と苦笑いまじりにカミングアウトしたのでした。創業者ゆえ常に社内で大きな存在感を示し続けそれを肌でも感じていたトップが、実質引退により自分の存在感の低下を感じた時に出やすいパターンであるのです。これは存在感堅持行動と言ってよく、幼い子が弟や妹に親の関心を奪われ退行行動に出るのと同じ、老人性の幼児がえりの一種と言ってもいいでしょう。

この場合に問題になるのは、意見の正しい正しくないだけではありません。そのやり方と行動の根底にある潜在的動機も重要なのです。誤った意見を正そうと思うのなら、やはり先人の立場から直接社長に言うのが筋であり、元実権者が過去の実績を背景として正規ルートとは違う流れで情報を流布し社内世論を動かそうとすることは、現組織マネジメントの統制を混乱させるモノ以外の何ものでもないのです。

小泉氏の場合はどうなのでしょう。会社と政治の世界はやや違うのかもしれませんが、穿った見方との批判を恐れずに言うなら、高支持率を維持したまま首相の座を退き政界からも引退しマスコミ取材は受けないと断言していたはずの氏の一連の行動は、先の会長同様に影響力の低下を察知して変わってきたとは思えないでしょうか。小泉氏の後を継いだ第一次安部、福田、麻生、政権交代後の鳩山、管、野田の各総理はすべて就任早々から右肩下がりに支持率を下げていくという状況にあり、その意味ではダメ内閣が続いたおかげで小泉氏の国民的評価は相対的に上がる傾向にあったのかもしれません。

しかし、再度の政権交代とアベノミクスによる一応の景気回復傾向は安部政権の支持率を押し上げる効果をもたらしました。そうなると、相次ぐダメ首相の登場により寝ていても安泰と思われていた自分に対する評価が、安部首相の安定的支持率傾向により忘れ去られるかもしれないという危機感が小泉氏の潜在意識の中に起きたとしても不思議ではありません。実権をゆずり隠居の身であることは企業における一線を退いた元経営者と同じ。時間の使い方、時間お流れが明らかに現役時代と変わることで確実に老いは訪れ、本人も気がつかない間に老害行動が始まっていると言うことは間々あるのです。

そうでなければいいのですが、何となく私は今回の小泉氏の安部首相に直接進言せずにメディアを通じて反安部的主張をはじめた動きには、老害の臭いを感じとってしまうのですが、いかがなものでしょうか。元々は小泉氏自身が後継として後押しした安部首相ですから、本来は直接本人に言うべきことをあえてメディアを通じて言っている行動には、どうも合点がいかないのです。繰り返し申し上げますが、小泉氏の主張の是非はまったく除いてのお話です。

先の企業の会長氏、その後は一切社員に余計なことは言わなくなり、本当に気になることがあるときだけ、こっそり社長に耳打ちをするようになられたそうです。小泉氏はこのまま今のやり方を続けるおつもりなんでしょうか。老害行動でないことを切に祈ります。