日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

郵政=アフラック提携は金融市場の健全化を損なう対米目くらましである件

2013-07-25 | ニュース雑感
本日の日本経済新聞1面トップは「郵政・アフラック提携」の記事。見出しを見た瞬間に非常に違和感を覚える記事でありました。
http://www.nikkei.com/article/DGXNASDF2400X_U3A720C1000000/

本文中にもあるのですが、郵政はこれまで第三分野保険に関しては傘下のかんぽ生命が日本生命と提携することで独自のがん保険の開発をすすめてきています。それがここにきて全く想定外の方向へのかじ取りを見せた形です。その裏にあるのはTPP日米交渉の事前協議における米国側からの「政府が出資する日本郵政グループが自由に新商品を出せば公正な競争を阻害する」という旨の注文です。要するに、国営郵政が日本生命との提携の下で新がん保険を販売するなら、その信用力を背景として他の既存金融機関が扱うがん保険の販売を圧迫し公正、公平な競争原理が損なわれる恐れがある、という主張であります。

これは表向き古くから国内の金融機関が主張を続けてきたものと同様であり、過去に郵政の早期完全民営化によるイコールフッティングの実現を通じた健全な市場原理の導入をすべきとの流れが、小泉改革における郵政民営化路線の実現につながった流れと一致しているわけで、国営郵政とアフラックとの全面提携という流れには小手先の対米目くらまし的違和感を覚えざるを得ないのです。

現在の郵政を巡る情勢は、民主党政権下の連立与党であった国民新党亀井静香氏の暴挙により、郵政民営化路線が大きな後退を余儀なくされました。これはひとえに集票マシンとしての全国特定郵便局長会を手なずけるための私利私欲党利党欲以外の何ものでもなく、改革の趣旨、我が国における市場経済の健全な発展を旨とした改革の趣旨を全く持って無視する許しがたい暴挙でありました。

当初の小泉改革案では、ゆうちょ、かんぽは09年度から10年度の間に上場させ、17年9月末までにその全株式を完全売却することとされていました。ところが、上記の暴挙により09年郵政民営化の手続きを凍結する法律が可決され、さらに12年には全株売却(完全民営化)と義務付けられていた部分が努力規定に後退したのです。もちろん株式売却資金を東北復興の財源とする狙いから2015年の株式上場を目指す流れはあるものの、改正法案での政府保有株の売却限度はその3分の2と定められ、完全民営化、イコールフッティングの実現に向けた道筋は全く明らかにされていないのです。

事の流れや本筋をしっかりと捉え本論に戻るならば、TPP日米交渉の事前協議における米国側からの保険業務に関する要請に対するあるべき回答の方向としては、国内生保をソデにしての国営郵政と外資保険販売との提携強化であるべきではなく、ゆうちょ、かんぽの上場および政府所株の全額売却による完全民営化スケジュールの提示であるはずなのです。その場しのぎの米国企業への優遇策を提示することで、あるべき市場経済の健全化を後回しにするという政治的判断は、どう考えてもおかしいとしか言いようがありません。加えて、政治的判断の犠牲になりとばっちり的に提携白紙撤回とされる日本生命の立場はどうなるのでしょう。

TTPにおける対米主要分野の交渉を有利にすすめたいという意図はもちろん理解できます。しかしながら、政治的折衝ごとに市場経済の健全化を犠牲にしかつ個別民間企業に犠牲を強いるような国家主導の金融機関政策こそ大問題であり、国営金融機関の問題点はこういうところにこそあるのです。今回の郵政のアフラックとの全面提携公表は、日本の金融市場の公平・公正な競争の下での健全な競争原理を国の力で大きく妨げるものであると考えます。

今回のような本質的な問題にフタしたままで、政治主導のおかしな小手先戦術を繰り出すことはあってはなりません。国債を主な運用先とする国営郵政のあり方について、国のリスク管理の観点から再度議論を重ねたうえで、異常な存在である巨大国有金融機関の早期完全民営化による健全な金融市場の形成を切に望むところです。