日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

東京電力とあるべき銀行与信判断(今年の企業総括その2)

2012-12-28 | 経営
今年拙ブログで二番目に登場回数が多かった企業は東京電力です。どのエントリーも、一言で言うなら再生スキームの正当性を問うたものでした。小職の主張は首尾一貫、「東電は破たん処理せよ」です。破たん処理の必要性については、株主責任、貸し手責任を問わずに料金値上げという形での利用者責任を問うやり方は著しく納得性に欠ける、という論旨です。

破たん処理の必要性については、様々な形で識者の皆さんも口にされているところですので、年末に際してのここではもう一段掘り下げて、あるべき金融与信の正常な機能という観点に絞ってこの問題を再度取り上げてみたいと思います。

今回の国が選んだ東電の処理スキームは、中期的な観点での黒字化見通しを軸とした再建計画を提出させることを条件として国が一時国有化をすることの前提の下、取引金融機関の追加融資によって“延命策”をはかるというものでした。

はっきり申し上げて現状の東電をめぐる環境は、先の見えない損害賠償、廃炉処理、使用済み核燃料の廃棄処理等に今後どれだけの費用がかかるのかも全く見当もつかない不透明な状況にあります。そんな状況下で、鉛筆をなめて作らせた机上の空論ともいえる再建計画を受理し東電を延命させるということの罪の重さを、国も国民はもっとしっかりと理解すべきではないかと思うのです。

“延命策”への協力により当面債権は守られた取引銀行は本件に関して言うなら、与信業務を放棄しています。先行きの見えない賠償負債を含めれば実質債務超過状態にある“死に体”企業に対して、“絵に描いた餅”の計画を元にして多額の追加融資を実行するなどということは、銀行としてその公共的使命を放棄したに等しい愚行であると考えます。

この問題に関して銀行が正しい与信判断をすることはものすごく重要な意味を持っています。なぜなら、銀行が東電に対してあるべき与信的判断から追加融資に「NO」を突きつけるなら、原子力発電所を持つ電力会社に対するあるべき与信リスクが成立し、「電力事業と原発のあり方」という問題提起を生むことになるからです。

すなわち、銀行が追加融資を断り東電が破たん処理をせざるを得ない状況に陥るなら、それは原子力発電所の事故リスクというものを正当に判断した企業評価をくだすことを意味し、原子力発電を持つ他の電力会社に対する与信リスク管理も同様の判断基準で運用されることになるのです。

そうなれば、本当の意味で安全性が確保されていない原子力発電所を稼動しようとする電力会社に対しての融資姿勢は当然厳しいものになるわけで、ここに銀行の与信業務によってあるべき企業の事業健全性が求められることになるという流れが実現されるわけなのです。

その流れからは、ごまかしの安全性確保により原発再稼動に乗り出す電力会社に対してはそのリスクを計量化した高い貸出金利が適応されることになるでしょうし、あまりに杜撰な管理をしている場合には融資を引き上げるという動きにもつながるので、電力会社には存続にかかわる危機感を与え原発エネルギー活用に対して嫌がうえにも電力会社経営の観点から慎重な対応を迫られることになるわけなのです。

これがあるべき銀行の与信判断であるはずです。現状はどうかと言えば、政府が実現性の乏しい計画書を受理することである種の“お墨付き”を与えて強引に銀行から追加融資の承諾をとりつけ、一時的に東電も国も銀行も薄氷の上で手をつないでお遊戯をしているような状況にあるだけなのです。

現に、東電は早くも計画のシナリオどおりの進行は難しいと弱音を吐いており、原発の不十分な安全確認下での本格再稼動や利用者負担の強引な積み増しでもしない限り、かなり近い将来にこの“延命策”は破綻の憂き目にあうことは確実な状況にあると思われます。

銀行が多額の不良債権を発生させたくない気持ちはよく分かりますが、完全に死に体の企業に対してつかの間の“延命策”としての「追い貸し」をすることが最終的には一層傷を深くすることになり、絶対にやってはいけないということは融資業務の「イロハのイ」ではないですか。少なくとも私が知っている銀行融資の考え方はそうです。繰り返しますが、今の東電取引行は国の指導の下談合して与信業務放棄をしているのです。

あるべき与信業務をすることで、原発を持つ電力会社のリスクを正しく評価し原発への取り組みを含めたその経営方針を正しい方向に導いていく、銀行は今こそ公共的な使命を帯びた機関であるということを自覚した上で行動をとるべきではないのでしょうか。

国が重い腰を上げないのなら、金融機関は東京電力に対して「期限の利益」を喪失させ破たん処理に追い込んで行く。原子力エネルギーの将来を正しい目で議論していくためにも、金融という公的役割を担う銀行には今こそそのような判断が求められているのではないかと思われるのです。

計画遂行で早くも弱音を吐いている東電に対して無用な“延命策”を続けることは、また来年何の罪もない一般利用者に責任をなすりつけるような再度の料金値上げという事態にもつながるでしょう。庶民レベルの負担増は景気の足を引っ張るだけで、何のメリットもありません。

仮に自民党政権が経団連はじめ電力ムラとの関係で“東電延命策”を継続する方針を打ち出したとしても、銀行は「正当な与信業務を通じた健全な経済活動の支援」という自身の社会的責任を認識したあるべき対応をして欲しいと思います。

以上のような観点を含めて拙ブログでは、東京電力に関しては被災者保護を法的に担保した上での早期破たん処理の必要性を、引き続き訴えていく所存です。