日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

大谷投手を日ハム入りに導いた「営業の極意」

2012-12-10 | 経営
甲子園を沸かせた花巻東高校のエース大谷翔平くんが、ドラフト1位指名を受けていた日本ハムに入団することが決まったそうです。ドラフト前は「大リーグに行く。日ハム入りの可能性はゼロ」と宣言して、日本球界からのドラフト指名を拒否する姿勢を示していた大谷くん。固い意志を覆した日本ハム球団の巧みな折衝術には、ビジネスにおける営業の極意に通じるヒントがあると見ました。

まずその一。「ロジカルな説明資料」。
営業における相手の説得に必要なことは、単なる熱意ではなく自分が売りたいと思う物やサービスがなぜお奨めなのかについて、自己の論理ではなく相手の立場を十分踏まえた上での論理的な説明が必要なのです。そのためには拙著「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51(http://www.amazon.co.jp/dp/B00AA6CJYE/)」に詳しく記しましたが、まずは「予備調査」が重要になるのです。そしてその「予備調査」に沿った形での論理的な説明。

日本ハムは今回のアプローチに際してドラフト前から、まず大谷くんが希望しているやり方を入念に分析した上で、韓国野球選手やサッカーJリーグにおける実例など海外での活躍実態に関する足を使った調査をおこないました。そして、交渉の席上で「日本スポーツにおける若年期海外進出の考察」という客観データに基づいたレポートを提示したのです。実際にこの資料が本人の心を動かすキッカケになったと本人も認めているところです。

その二。「ほめあげ戦術」。
この点も小職オリジナル営業理論「5ステージ+1営業」の第二ステップである「カットイン」の項で詳しく触れているのですが、とにかく交渉において相手をこちらに近づけるためには何より相手を具体的にほめること。ただただお世辞を言っているかのように「いいですね」「すごいですね」とほめたところでそんなものに相手はなびきませんから、自己の評価を明確に示すような具体的な形でほめあげるということが重要になってきます。

今回のケースでは、彼が希望する大リーグ入りをすでに果たしている憧れの先輩ダルビッシュ有選手がつけていた背番号11を用意するという形で、「球団は君をダルビッシュ並みに評価している」との“ほめ姿勢”を明確にしました。さらに周辺調査に基づいて彼の打撃に対する自信を知るや、「投手、野手の二刀流もOK!」とその自信の打撃に対しても球団は大いに評価しているという姿勢で実に巧みな「ほめ」を与え、彼の心を引き寄せたのです。

その三。「利他の精神」。
これは営業において本当に大切。“お願い営業”“押し込み営業”では、絶対に相手にそれを感じさせることができない部分でもあります。「利他」の対義語は「利己」。営業活動で言うなら、論理的根拠のない「絶対いいと思いますよ」「お得ですよ」は相手の耳には「私のため、当社のためにお願いします」と聞こえているハズです。「この人は本当に自分のことを思って売り込んでいるのか」という疑問に、無言で「ハイ」としっかりと答えているような応対姿勢が大切なのです。

日本ハムは、「将来の大谷くんの大リーグでの成功を一緒に成就させましょう」と熱意を持って語り、その姿勢を裏付けるような資料や話を展開していくことで、「この球団は本当に僕のことを思ってくれている。この球団が付いていてくれるなら心強い」と思わせることができたのでしょう。大谷くんの入団が内定した段階でなお、感想を求められた栗山監督が「うれしいと言うよりも、責任の重さを感じている」と答えた姿勢は、「利他の精神」を現場監督までがしっかりと貫いていることの証でもありました。この点は、営業活動におけるフロント、現場一体での体制確立の大切さも教えられる思いでした。

最後に、“日本の宝”となりうる賢明な選択をした大谷くんに拍手を送るとともに、近い将来における大谷くんの「夢」の成就を、一スポーツファンの立場でしっかり見守っていきたいと思います。