日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

ノーベル賞受賞に3つの意義

2012-10-09 | ニュース雑感
iPS細胞による人工卵子生成の話を拙ブログで取り上げた直後に、京都大学の山中伸弥教授がiPS細胞作製でノーベル生理学・医学賞を受賞したとの報が入ってまいりました。この受賞日本人としてとても喜ばしいことであるのは間違いありませんが、それと同時に3つの点で大きな意義があると受け止めています。

新聞等報道でも触れられていることですが、今回の受賞の大きな特徴として、iPS細胞は製作には成功しているものの、現時点では実際の医療に具体的な形では役立てられてはいないということがあります。この点は、これまで理論の発明やものの発見そのものを受賞対象とせず実社会での貢献を受賞基準としてきた感が強いノーベル賞にあっては、勇気ある英断であろうと思えます。もちろん見方を変えれば、医療の世界において役立つことが確実であると誰の目にも明らかなほど、iPSは大変な偉業であるとも言えるのかもしれません。いずれにせよ、この早期の栄誉授与の英断にこそ大きな意義があると思っています。

まず第一に、実用化に向けた重要なタイミングでノーベル賞と言う誰もがその価値を認める国際的に大きな賞を受賞することで、国を挙げての支援体制が今まで以上に確保されやすくなります。ならば、iPSの早期実用化による医療現場で劇的な治療の改革への期待も大きく、多くの難病患者たちにとって予想以上に早い朗報にもなりうるであろうという点です。この点に関して言えば、民主党政権の事業仕分けの弊害的に続いている、「今必要のないものはすべてカット」ともとれる単視眼的予算運用の犠牲となって、十分な国家支援が得られなかったかもしれないリスクは確実に回避できたと思われます。

第二に前回のエントリでも触れた、革新技術の倫理面に配慮した健全な利用ルートの確保面へのメリットです。ノーベル賞と言う世界の誰もが知りうる栄誉を与えられることで、嫌が上も陽が当らざるを得ない状況になり、技術の健全な実用化に関してもこれまで以上に多くの場面で議論がなされる環境が整ってくると思われるからです。悪意をもって革新技術の利用を考える人間は、どんなことをしてでも仕掛けてくる可能性は否定できませんが、iPS細胞の技術が公になればなるほど悪意ある企みも闇から外に出る可能性も高くなり、革新技術は確実に人類の共有財産として世界的に平和利用される道につながると考えます。

そして第三に、早期受賞による若い技術者のさらなる飛躍を後押しできるという点。これまでのノーベル賞受賞基準では、革新的な技術であっても十分な実社会での貢献実績が現れ受賞対象となるまでにあまりに多くの時間が費やされることもあり、技術者自身が研究者として肉体的にも精神的にもピークを過ぎた年齢での受賞と言うことも多くあったように思います。今回の山中さんの50歳という若さをもってすれば、これから今までをはるかに超える官民問わぬ多くの支援が集まることで、技術者としてのさらに一層の飛躍も期待できるわけで、ノーベル賞を叙勲的な位置づけに終わらせない大きな意義がそこにはあると思うのです。

いずれにいましても本当に喜ばしい今回のノーベル賞受賞。医学と言う我々一般人の生活に直結する分野における受賞であるだけに、ノーベル賞受賞と言う事実だけに終わらない、これを機にした今後の一層の発展的展開に期待が高まります。