日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

格安航空は大丈夫?命を預かる旅客輸送業の“やってはいけない”

2012-05-01 | ニュース雑感
関越自動車道における格安夜行バスの事故を巡り、さまざまな意見が出されています。

何をおいても言っておかなくてはいけないことは、人の命を預かる商売は例え価格競争で低コストを目指そうとも、絶対に危険性が増すようなコストダウンはしてはならない、ということ。これは、最低限の“やってはいけない”です。

今回のバス運行は、金沢~東京ディズニーランド間が大人片道3500円の格安とか。乗客は50人弱ですから、仮に満席の50人でも収入は17万5千円です。高速利用+大型バス+運転手は深夜労働扱い…しかも手数料を抜かれる旅行代理店経由での販売ですから、運行会社は相当なコストダウンがなければ採算が取れない商品であることが容易に想像できます。

この場合コストダウンにおける一番の“やってはいけない”は、運転手に関する無理と車両整備に関する手抜きです。いかにコストダウンを求められようとも、自社のサービス内容を決定する際には必ず、「乗客の命をお預かりしているわが社のサービスとして問題ないか」という観点から、再確認する必要があるのです。恐らく今回の事故の裏には、この部分を甘く見た会社側の落ち度が必ず存在したと思っています。

この問題は、当然バスに限った問題ではありません。飛行機も電車もタクシーも、ひとたび人を運ぶサービスを扱うのであるのなら、皆同じこと。しかし業務への慣れや価格競争の激化の中で、旅客輸送業は乗客の命をお預かりしているのだという意識はいとも簡単に忘れられてしまう傾向にあるのです。これは本当に恐ろしいことです。旅客輸送ビジネスのコストダウンは、宅配便のそれとは根本的に“やってはいけない”部分が違うのです。ちょっとした気の緩みからそれを忘れた時、今回のような取り返しのつかない事故は起きるのです。

デフレが続く我が国経済状況下で、確かに今まで高価であったものが値下がりしてくれることはある意味歓迎すべきことではあります。しかし命にもかかわるサービスでは、利用者の側も手放しで喜んでばかりいるのは大変危険であるということなのではないでしょうか。

例えば価格破壊とも言えそうな今注目の格安航空会社ですが、これまでの常識を破る価格設定を実現せんがために、ほんの僅かでも安全面を損なうようなコストダウンをしていないか、消費者の側からも厳しい監視の目を向ける必要があるでしょう。私は、格安航空会社の上層部がテレビなどで「オフィスひとつから、安い中古家具を集めて余計なことろに一切カネをかけていません!」と胸を張るの話を聞くと、一抹の不安を覚えます。

なぜならサービスを構築する際に、その会社の社風や組織風土は必ず反映されるからです。コスト最優先という社風を浸透させた会社が、社風そのままに機体を購入したりパイロットを採用したりサービス教育をしたら、そのことが恐ろしい結末につながる可能性がそうでない社風の会社よりも高いということは、否定はできない事実であると思うからです。

もちろん、格安航空会社はあくまでひとつの例としてあげたまで。むしろ空を飛ぶがために嫌でも安全性に気を配らざるを得ない航空会社よりも、地を走る車両を扱う電鉄会社やタクシー会社の方が、安全性に関する油断が生じやすいかもしれません。いずれにせよ、すべての旅客の命を預かる企業は規模の大小を問わず、自社の安全性確保に関して僅かでも油断がないか、この機会に自社のサービスに関する安全性確保についてぜひとも総点検をして欲しいと思います。