この街に越してきて2年8ヵ月が過ぎた。それまで、短い期間で各地を転々としていたので、一ヶ所に長く住まうのは久しぶりのこと。
この街は、私鉄沿線の各駅停車駅から拡がる街で、どこにでもある街の一つだ。しばらく、この街を描写してみよう。
まず、飲食店について。
そば屋は3軒あったが、1軒が廃業して、2軒が残っている。2軒ともまずまずの味だ。
中華料理屋が1軒、味はいただけない。ほかに、ラーメン屋が2軒。
スパゲッティ屋があったが、つぶれた。
とんかつ屋が1軒、ほかに「新宿 さぼてん」の惣菜屋がある。
うなぎ屋はない。
焼肉店と寿司屋が数軒ずつあるが、入ったことはない。
レストランが1軒、ファミリーレストランが1軒。
24時間営業の「オリジン東秀」があったが、最近店を閉じた。この種の店を維持するには街が小さすぎるのだろう。
駅の後背地に、大きな新開住宅地とマンション群がある割りには、なんとも貧しい飲食店の分布だ。この住宅地とマンションの住人は、街に出て食事をする習慣がないのだろうか? 食材や惣菜を買って家で食事をしている毎日なのだろうか? よくわからない。
駅から私の住む団地に向かう途中に大規模なスーパーマーケットがある。IY堂だ。このお店があるので救われている。大きな食品売り場のほか、衣料、生活用品など何でも揃っている。クリーニング屋、靴修理屋、銀行ATMなど、便利な施設もある。
このスーパーは、週末など大変なにぎわいで、買いだめしている客も多い。まるで、アメリカかオーストラリアのスーパーのような光景だ。
シンクレア・ルイスに『本町通り』という小説がある(*)。岩波文庫に収録されている。
本町通りとは、英語で The Main Street のことで、アメリカの田舎町の中心をただ一本走る通りのことを指す。ルイスの小説では、この通りに散在する地元のお店やそのお客である後背地の住宅地の住人たちが織り成す日常のドラマをヴィヴィッドに活写している。
さて、ルイスの小説を思い出したのは、わが街にも、メイン・ストリートがあって、それがルイスの小説を彷彿とさせるからだ。
わが街のメイン・ストリートは駅前から始まり、丘陵地の坂道を上り下りし、後背地の住宅地に吸い込まれていく。両側の店舗は、新興地らしく、改廃や転変が多い。ルイスの小説のメイン・ストリートとの違いは、「お店と住人たちが織り成す日常のドラマ」が比較的薄いところだ。
このように、わが街では、店舗の数が異常に少なく、小ざっぱりした公園が多いなど、いかにも新興地らしく、生活の歴史を感じることが少ない。それでも、私はわが街に愛着を持っている。それはなぜかといえば、静かで落ち着いたたたずまいが、住んで安心を誘うからだと思う。
街の猥雑さを求めたり、ショッピングをしたりするのであれば、近くの特急停車駅か都心まで出かければいい。仕事を退役しているから、通勤で分秒を争う必要もない。代わりに郊外の静かな環境が手に入る。それが何よりだ。
なお、イギリスでは、メイン・ストリートのことを High Street と呼ぶようだ。ロンドンのウィンブルドンの駅前から延びている道が High Street であったことを思い出した。この通りはくねくね曲がっていて、すぐに、商店街をぬけて、住宅と畑が広がる場所に出てしまった。でも、これがメイン・ストリートに間違いない。これ一本しか通りはないのだから。 (2007/12)
この街は、私鉄沿線の各駅停車駅から拡がる街で、どこにでもある街の一つだ。しばらく、この街を描写してみよう。
まず、飲食店について。
そば屋は3軒あったが、1軒が廃業して、2軒が残っている。2軒ともまずまずの味だ。
中華料理屋が1軒、味はいただけない。ほかに、ラーメン屋が2軒。
スパゲッティ屋があったが、つぶれた。
とんかつ屋が1軒、ほかに「新宿 さぼてん」の惣菜屋がある。
うなぎ屋はない。
焼肉店と寿司屋が数軒ずつあるが、入ったことはない。
レストランが1軒、ファミリーレストランが1軒。
24時間営業の「オリジン東秀」があったが、最近店を閉じた。この種の店を維持するには街が小さすぎるのだろう。
駅の後背地に、大きな新開住宅地とマンション群がある割りには、なんとも貧しい飲食店の分布だ。この住宅地とマンションの住人は、街に出て食事をする習慣がないのだろうか? 食材や惣菜を買って家で食事をしている毎日なのだろうか? よくわからない。
駅から私の住む団地に向かう途中に大規模なスーパーマーケットがある。IY堂だ。このお店があるので救われている。大きな食品売り場のほか、衣料、生活用品など何でも揃っている。クリーニング屋、靴修理屋、銀行ATMなど、便利な施設もある。
このスーパーは、週末など大変なにぎわいで、買いだめしている客も多い。まるで、アメリカかオーストラリアのスーパーのような光景だ。
シンクレア・ルイスに『本町通り』という小説がある(*)。岩波文庫に収録されている。
本町通りとは、英語で The Main Street のことで、アメリカの田舎町の中心をただ一本走る通りのことを指す。ルイスの小説では、この通りに散在する地元のお店やそのお客である後背地の住宅地の住人たちが織り成す日常のドラマをヴィヴィッドに活写している。
さて、ルイスの小説を思い出したのは、わが街にも、メイン・ストリートがあって、それがルイスの小説を彷彿とさせるからだ。
わが街のメイン・ストリートは駅前から始まり、丘陵地の坂道を上り下りし、後背地の住宅地に吸い込まれていく。両側の店舗は、新興地らしく、改廃や転変が多い。ルイスの小説のメイン・ストリートとの違いは、「お店と住人たちが織り成す日常のドラマ」が比較的薄いところだ。
このように、わが街では、店舗の数が異常に少なく、小ざっぱりした公園が多いなど、いかにも新興地らしく、生活の歴史を感じることが少ない。それでも、私はわが街に愛着を持っている。それはなぜかといえば、静かで落ち着いたたたずまいが、住んで安心を誘うからだと思う。
街の猥雑さを求めたり、ショッピングをしたりするのであれば、近くの特急停車駅か都心まで出かければいい。仕事を退役しているから、通勤で分秒を争う必要もない。代わりに郊外の静かな環境が手に入る。それが何よりだ。
なお、イギリスでは、メイン・ストリートのことを High Street と呼ぶようだ。ロンドンのウィンブルドンの駅前から延びている道が High Street であったことを思い出した。この通りはくねくね曲がっていて、すぐに、商店街をぬけて、住宅と畑が広がる場所に出てしまった。でも、これがメイン・ストリートに間違いない。これ一本しか通りはないのだから。 (2007/12)