アイヌ民族情報センター活動日誌

日本キリスト教団北海教区アイヌ民族情報センターの活動日誌
1996年設立 

CBDCOP10の成果

2011-02-09 11:51:07 | インポート

活動日誌ならず、月報状態ですが、今回は少々長いです。
2月4~5日に行われた「ESD(持続可能な開発のための教育) 地域セミナーin紋別 地域で学ぶ、未来を学ぶ~地域の歴史・文化・環境とアイヌ民族~」に参加してきました。
教育と先住民族、そして、持続可能な開発のための教育がテーマとなって、昨年もそうだったようですが、学校教師の皆さんが多く来られていました。

一日目の講演は北海道アイヌ協会副理事長・副読本編集委員長の阿部ユポさんより、「副読本『アイヌ民族:歴史と現在』を活用するために」の講演。
副読本の小学生用、中学生用「アイヌ民族・歴史と現在~未来を共に生きるために」と、教師用副読本が配布され、歪曲され、隠された歴史をしっかりと伝えることの必要性を訴えられました。



お二人目は上村英明さん(市民外交センター代表・恵泉女学園大学教授)より、「先住民族の権利宣言と生物多様性」の講演。

最初に国際環境法と人権についての歴史を分かりやすく解説して下さいました。
1972年にストックホルムで国連人間環境会議が開催され、有機水銀などを原因とした公害病(水俣病)などが国際化。これによって環境問題と人権の関係が明白化。
20年後の1992年、リオデジャネイロにて国連環境開発会議が開催。「環境と開発に関するリオデジャネイロ宣言」(リオ宣言)採択。ここで「持続可能な開発」という概念が確立され、環境問題は皆の努力が必要だという考えにいたった(逆に、誰が問題かがあやふやになってしまった)。
この会議で国際的に重要な以下の二つの環境条約が採択。
1.気候変動枠組み条約(UNFCCC)。地球環境の悪化を温暖化=CO2を中心とする温室効果ガスの排出量の増加で測る条約。石油文明と大量消費社会からの脱却を考えるもの。
2.生物多様性条約(CBD)。地球環境の悪化を生物多様性(「生態系」、「種」、「遺伝子」)の減少で測る条約。生命の重視・大規模開発主義の否定するもの。


2のCBDの特徴は以下の3つ。
(外務省のHPにも明記→ http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kankyo/jyoyaku/bio.html)
①生物多様性の保全
②生物多様性の構成要素の持続可能な利用
③遺伝資源の利用から生じる利益の公正かつ衡平な配分


日本では、①しかイメージない。すなわち、希少な動物・植物を保護する程度(あるいは山から下りてきた鹿や熊・猿対策)。
②は自然を持続可能な利用してきた人々(先住民族)を守らなければ環境は守れないことなのだということ。
③は大航海時代まで戻って利益を考え直せというもの。コロンブスが持ってきたジャガイモを品種改良した。奪ってきたもので豊かになったのだからその利益の衡平な配分が必要だとするもの。
たとえば、タミフルはネパールなどに生息している植物ハッカクを先住民族が利用していたのをアメリカが開発。また、インフルエンザのワクチンは熱帯雨林に住む先住民族の人体実験による犠牲によって作られているが、薬は高額のため先住民族には恩恵が得られない状態などの改善。
②、③を解決するには人間対策が必要との考えの下で、CBDでは先住民族の権利(人権)について第8条J項と第10条C項が入ったとのこと。
CBD第8条J項
「自国の国内法令に従い、生物の多様性の保全及び持続可能な利用に関連する伝統的な生活様式を有する先住民族・地域共同体の知識、工夫、及び慣行を尊重し、保存し及び維持する適用を促進すること並びにそれらの利用がもたらす利益の平衡な配分を奨励すること。

第10条(生物多様性の構成要素の持続可能な利用)C項
「保全又は持続可能な利用の要請と両立する伝統的な文化的慣行に沿った生物資源の利用慣行を保護し及び奨励すること。」




2010年10月18日~29日に名古屋で開催されたCBDCOP10では世界各地から150名を超える先住民族が参加し、以下を含む47の成果文書を採択。
①ABS議定書(名古屋議定書)
②新戦略計画2011・2020(愛知ターゲット)


①の名古屋議定書では、前文27段落中4段落、本文36条中11条にて先住民族の権利に関して言及(上村訳 注:草案ゆえ番号が変わる可能性あり)
第5条:公正で衡平な利益配分
2.締約国は、先住民族・地域共同体によって保有される遺伝資源の利用から生じる利益が、これら遺伝資源に関する先住民族・地域共同体の確立された権利に関する国内法規に従い、相互に合意された条件に基づき、当該共同体と公正かつ衡平な方法で配分されることを目的に、適切な場合には、法的、制度的あるいは政策的措置を取る。

第6条:遺伝資源へのアクセス
2.国内法に従い、各締約国は、先住民族・地域共同体の事前で十分な情報に基づく合意や承認および参加を、彼らがこうした資源へのアクセスを認可する確立された権利を保有しているところでは、遺伝資源へのアクセスのために確保することを目的に、適切な場合には、法的、制度的あるいは政策的措置を取る。


愛知ターゲットでは 20の目標の内、2つの目標で言及。
戦略目標D:生物多様性および生態系サービスからの利益をすべての人へ
ターゲット14: 2020年までに、水に関するサービスや健康、生活、福祉に貢献するサービスを含め、基本的なサービスを提供する生態系は、女性、先住民族・地域共同体、貧困者および弱者のニーズを考慮しながら、回復され、保全される。

戦略目標E:参加による計画策定、知識管理、および能力強化を通した実施
ターゲット18: 2020年までに、生物多様性の保護や持続的な利用および生物資源の慣習的使用に関連した、先住民族・地域共同体の伝統的知識、革新および慣行は、国内法規と関連する国際義務に従って、尊重され、かつ、すべての関連レベルにおける先住民族・地域共同体の完全で効果的な参加の下に、本条約の実施に完全に統合され、反映される。


かなり多くの制限はついたが、先住民族が遺伝資源の利益配分の主体として認められたことや、「先住民族・地域共同体の完全で効果的な参加」が明記されたことは大きな成果だと。確かにすごいことですね。先住民族サミットの前半だけ参加のために名古屋に行きましたが、そこでこのような進歩があったとは・・・。
さらに、これらを進展させていければ、モベツ川上流の産廃施設問題にもつながるし、アイヌ民族の権利回復にもつながる、と上村さんは言及。たとえば、

①日本政府は2007年に「第3次生物多様性国家戦略」を策定したが、アイヌ民族どころか先住民族に関しての言及がないため、早急に改定が必要。  
   http://www.env.go.jp/nature/biodic/nbsap3/pdf/mainbody.pdf
②2008年6月制定された「生物多様性基本法」にもアイヌ民族あるいは先住民族に関しての言及がないため、早急に改定が必要。
   http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H20/H20HO058.html
③2011年1月より環境省による「生物多様性保全活動促進法」制定準備のためのヒアリングが行われているが、要注目。 
   http://www.env.go.jp/nature/satoyama/conf_pu/22_03/3_shiryou2-2.pdf
④2010年7月につくられた「北海道生物多様性保全計画」(全65頁)には、15行分に「アイヌ民族の自然観に学ぶ」と明記されているが、その具体的な計画が全くない。具体化が必要。
   http://www.pref.hokkaido.lg.jp/ks/skn/hokkaidotayousei.htm (9頁目)


等々、取り組むべきことが多くありますね。
世界レベルで先住民族の権利について法制化されたのですから、議長国である日本政府もしっかりと取り組む必要があります。わたしたちも注目し、主張していかなければなりませんね。大変、勉強になりましたし、力を頂きました。


紋別でガリンコ号Ⅱに乗り、流氷を観て来ました