アイヌ民族情報センター活動日誌

日本キリスト教団北海教区アイヌ民族情報センターの活動日誌
1996年設立 

沖縄派遣の大阪府警機動隊員による市民に対する差別的言動

2016-11-02 21:39:54 | 日記

さる、10月18日、沖縄県東村高江における米軍基地ヘリパッド移設工事周辺で抗議活動をしている市民に対して、大阪府警巡査部長および巡査長が「どこつかんどんじゃ、ぼけ、土人が」と唾を吐きかけるように発し、別のところでは「黙れ、こら、シナ人」と暴言を吐くなどの差別的言動をとり、翌日にその内容がインターネットで流されました。ネット流出日の夜、松井一郎大阪府知事は、「表現が不適切だとしても、大阪府警の警官が一生懸命命令に従い職務を遂行していたのがわかりました。出張ご苦労様」とネット上の情報サービス「ツィッター」でつぶやきました。さらにその翌日20日、記者団の質問に、松井知事は「沖縄の人の感情があるので言ったことには反省すべきだと思う。・・・そのことで個人を特定され、あそこまで鬼畜生のように叩かれるのはちょっと違うんじゃないか。相手もむちゃくちゃ言っている」と主張しました。ネット上では、抗議活動をしている市民たちの「暴言」などが流されることもありました。

大阪府警巡査部長らの暴言は、沖縄の人々を劣った民族と見下し、さらに威嚇したものです。このような暴力を機動隊という圧倒的な公権力を持つものが、公務執行中に行うとは断じてゆるされることではありません。「沖縄市民もひどいことを言った」と言うような擁護もされますが、市民と公権力の違いは重要です。

さらに、そこで使われた「土人」「シナ人」との用語は、アイヌモシリ(北海道)や沖縄等に対する日本の植民地支配の歴史の中で、被支配者に対する侮蔑や嫌悪を煽る文脈で使われて来たもので、明らかに相手を見下して貶める差別用語に当たります。

アイヌ民族を「土人・旧土人」と蔑む呼び方は1997年まで「旧土人保護法」(1899年制定)によって使われていました。この法は貧困に追いやられたアイヌ民族に対する保護を名目としてつくられましたが、結果的には法的に土地を奪い、「旧土人=アイヌ」であることは恥ずかしいことだと同化教育によって劣等感を植え付けるものでした。

沖縄においても琉球処分官の松田道之が処分後に出した「沖縄県下士族一般に告諭す」という布告において、政府の命令に従わない琉球人は「土人」であり、職業も権利も失う。だから、言うことを聞いて琉球処分への反抗をやめなさい、という趣旨の脅し文句が公文書にあるとし紹介されています(沖縄タイムス琉球大学名誉教授 比屋根照夫さんインタビュー)。

これらの差別用語をどうして機動隊員が使ったのかに対し、たまたま二人が差別思想をもっていたという話ではなく、警察組織では聞くに耐えない侮蔑語が飛び交っており、研修などでは市民運度やマイノリティなどを「社会の敵」とみなす教育が徹底的に行われていると報じているものがありました(リテラ2016.10.26)。組織ぐるみで差別を教育していることの偏向教育は見直すべきです。

この差別発言に対し、国の対応として鶴保庸介沖縄担当相が31日、「発言したこと自体は許されないが、本当に差別かどうかというと、いろいろな問題が出てくる」と述べました。また「許されないことをした、謝った、それを受け止めたという(お互い)冷静な関係であっていただきたい」と、なんともあやふやな表現をしたことが報じられました(沖縄タイムス2016年11月1日記事)。

その後の松井知事の発言同様、機動隊員らの発言が差別煽動発言であり、職務中の公務員が絶対に行ってはならない言動であるという認識がまったくないことは大問題です。

これら言動は歴史的、マイノリティに対する構造的差別に基づく言動による攻撃、すなわちヘイトスピーチといえます。

 CMでおなじみの『お父さん」犬のこども「ゆめ」ちゃん。お座りしてくれました。白老博物館にて。

2014年8月に、国連人権条約機関による日本政府定期報告書の審査があり、人種差別撤廃委員会による日本審査においてヘイトスピーチは重大な問題とされました。ヘイトスピーチを行った個人および団体を捜査し、適切な場合には起訴する事、また、ヘイトスピーチをした公人および政治家に対する適切な制裁を追求することが勧告されました。この度の「土人」発言に当てはめると、これは単なる「言葉の暴力」ではなく、捜査や起訴の対象となる「犯罪」であり、発言者が大阪府警巡査部長らであるゆえに「制裁」の対象になります。対応しなければならない沖縄担当相ら政府であり、大阪府知事ら地方政府にあります。それらが揃いもそろって、対応しないのは国際法的にも大問題です。大阪府知事の発言は、公人が人種差別を助長、扇動することを認めない人種差別撤廃条約第4条 (c) 項の違反にもなっています。

さらに、2014年7月の国連自由権規約委員会による日本審査は、その総括所見に「人種差別に対する啓発活動に十分な資源を割り振り、裁判官、検察官、警察官が憎悪や人種差別的な動機に基づく犯罪を発見するよう研修を行うようにすべく、更なる努力を払うべきである」と勧告しています。本来、犯罪を発見する努力を払うべき立場にあるはずの機動隊員が、今回、真逆の言動をとったことになります。さらに、付け加えると「締約国はまた、人種差別的な攻撃を防止し、容疑者ら(今回は機動隊員)を徹底的に捜査・訴追し、有罪の場合には適切や処罰がなされるよう必要な全ての措置を取るべきである」と勧告されています。その勧告を重く受けとめ、必要な全ての措置をとるべきです。

これらの問題に、人種差別撤廃NGOネットワーク等が呼びかけ団体となり、国や警視庁、そして大阪府に対し、要望書を送る動きがあり、わたしたち日本キリスト教団北海教区アイヌ民族情報センターも賛同団体に加わりました。

国や地方自治が人種差別を行わず許さないよう機能するように、警察組織が差別教育をしないように、国民が人権意識をより豊かにするために、まだまだ課題がおおいことを感じます。

加えて、「酋長(しゅうちょう)」という言葉にも言及したいと思います。過日、わたしが管理している別のBlogに「先住民族関連ニュース」があります。そこにはネット上のアイヌ民族・世界の先住民族関連のニュースを紹介しているのですが、その記事の中に「酋長」という言葉が入っていました。知り合いの指摘を頂き、「酋長」も「土人」と関連する差別用語だということを伝えるべきと思い、以下の文を挿入することにしました。

「酋長(しゅうちょう)とは、主に未開の部族の長をいう。そもそも「未開」という認識そのものが差別であり、侮蔑的な語であるとして、現在では使用が忌まれる傾向にある。wikipedia「酋長」より

 

明日は、八幡智子さんの講演が午後1時半よりエルプラザであります。ぜひご一緒しましょう。

(写真は登別のクマ牧場にて)