アイヌ民族情報センター活動日誌

日本キリスト教団北海教区アイヌ民族情報センターの活動日誌
1996年設立 

植民地政策と万博、そしてオリンピック

2007-10-02 07:45:34 | インポート
2週間ほど前から北海道新聞の紙面に13回もので連載された「セントルイスの9人」(編集委員 村山健担当)を興味深く読みました(スクラップブックに貼りました)。

少々、歴史をさかのぼりますが、1889年にフランスで開催された「パリ万国博覧会」は、フランス革命100周年を記念しての大規模な催しで、現在もパリの象徴となっているエッフェル塔が建設されるなど、多くの関心をあつめました。
この敷地内に「植民地展示場」が設けられます。そこにはフランスの植民地政策の成功を宣伝するために、アジア、アフリカのフランス植民地の街並みが再現されて、市民はパリにいながらにして植民地を疑似体験できたのです。市民に体験させることで政府は自分達の行なっている帝国主義政策に理解を得ようと考えたわけです。
さらに街並みだけではなく、アジア、アフリカの住民182人が強制連行され「見世物」とされました。また、別の一角では「ワイルド・ウエスト・ショー」と称して米国から連れて来られた先住民族がヨーロッパ人の、ゆがめられ過った「先住民族像」を演じるショーをさせられていたのです。
植民地政策と万国博覧会とが密接に関係しているわけです。

1904年にはアメリカ・セントルイスにて万国博覧会およびオリンピックが行なわれます。
工業化した西欧国家の文明を「進歩」と賞賛するために「未開」を置いて際立たせる必要があり、「未開民族」の展示場設置、さらに、「人類学の日」が設けられ、「未開民族のオリンピック競技会」が併催されます(セントルイスという場所も、ヨーロッパ人が描く「ワイルド・ウエスト(未開の西部)」の入口に位置していた)。
「人類学の日」競技会(オリンピック)には四人のアイヌ民族が「日本国籍」で選手として出場します。「日本国」としてのいちばん最初の、オリンピックデビューがこの日なのです。
さて、この競技会はなんとも差別的なもので、その目的は、「未開な民族」がスピード、スタミナ、筋力などにおいて優れた運動能力を持っているという「うわさ」を実証することだったのです。アイヌ民族の他に集められた民族は、ココパ(メキシコ)、パゴダニア人(南米パゴタニア)、スー民族(米)、チペワ(米)、プエブロ(米)、ポーニー(米)、クワキュートル(カナダ)、モロ(フィリピン)、シリア人(アジア)、トルコ人(アジア)、ピグミー(アフリカ)、バクバ(アフリカ)、ズールー(アフリカ)など、いづれも「未開民族」の展示場への参加者でした。
競技種目はほぼ当時のオリンピックの種目と同じで、100ヤード競走、走り幅跳び、大型ナイフ投げ、槍投げ、アーチェリー他。競技記録全体では「未開民族」の驚異的なスピード、スタミナ、筋力などを証明する結果にはならなかったとのこと。
1904年とは日露戦争の最中です。にも関わらず現在の価値にして10億を越す大金を投じて意欲満々に参加した明治政府は欧米列強と肩を並べる強国日本の宣伝と、平和事業(万博)に参加することで植民地支配戦争の正当化を謀ったことがわかります(「セントルイスの9人」NO11)。



昨日、天塩・初山別の家庭訪問に行きました。


この万国博覧会にアイヌを斡旋したのが、当時、イギリス聖公会の宣教師として日本に来ていたJ・バチェラーです。
彼はその前年(1903)に、大阪で行なわれた第5回国内勧業博覧会に設置された「人類館」にもアイヌを紹介したとのこと。
国内勧業博覧会は日本の資本主義政策を宣伝し推し進める役目をもつもので、1877から約5年ごとに3回は東京、京都、そして大阪で行ないました。
「人類館」には、アイヌ、朝鮮人、台湾原住民、インドのキリ人、ジャワ人今日のインドネシア人、沖縄の女性2名を見世物にしたわけです。
ここにバチェラーは7名のアイヌを紹介します。彼がどんな理由で紹介したかわかりません。より調べる必要を感じます。ただ、この人々は、植民地とされた人々(インドはイギリス、インドネシアはオランダ、台湾・朝鮮・沖縄・アイヌは日本)です。これは、沖縄から来た人が琉球新聞に投書して中止となります。バチェラーの意図がどうあろうとも、差別と弾圧を推進する植民地政策を支える勧業博に協力した事実は否定できません。

バチェラーがなぜ植民地主義を正当化し、アイヌを見世物にするこれらの催しにアイヌを推薦したのでしょうか。
このあたりを今回の道新の連載は深めています。おいおい、確認できることをしながらわたしも深めていきたいと思います。

参照1:上村英明著『先住民族の「近代史」』


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