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(患者を生きる:2988)がん 短歌のはげまし:4 いつか、だれか救う歌に

2016年02月13日 22時38分34秒 | 
(患者を生きる:2988)がん 短歌のはげまし:4 いつか、だれか救う歌に
その他 2016年2月12日 (金)配信朝日新聞

 2009年5月に子宮体がんの手術を受けた東京都町田市の歌人、岡部史(ふみ)
さん(64)は退院から3日後、足のむくみに気付いた。リンパ節の切除によって起きる「リンパ浮腫」だった。
 リビングの床に右足を「く」の字に曲げたまま座り、30分ほど読書をしていたら、右足の感覚が鈍くなって、ももが太くなっていた。慌ててさすってみたが、変わらなかった。ベッドに入ると、窓から満月が見えた。
 《悲しくて見上げるたびに古代母(こだいぼ)のやうなる月にみつめ返さる》
 翌朝、病院で主治医に「軽い浮腫です。同じ姿勢で長時間過ごさないように」と言われた。
 岡部さんはインターネットなどで対処法を探した。専用のストッキングによる圧迫療法や、特殊なマッサージを1年ほど試してみたが、あまり効果はなかった。
 10年8月、東京大学病院形成外科の光嶋勲(こうしまいさお)教授を訪ねた。診断の結果、足首や足の付け根などで、リンパ管と静脈とをつなぎ合わせる手術を受けることになった。皮下組織にたまったリンパ液が、リンパ管を通って静脈に流れ込み、むくみが軽減されるという。10月の手術では、複数の手術用顕微鏡を使い、直径0・5ミリほどのリンパ管と静脈を縫い合わせた。
 1週間後に退院すると、「太ももに糸が絡まっているような」違和感が薄れ、むくみも少しずつ軽くなっていった。
 最初に診察を受けるきっかけとなった歌の作者、河野裕子さんは乳がんで10年8月に亡くなった。10月に開かれた偲(しの)ぶ会は、安静期間中のために出席できなかった。かわりに歌をつくった。
 《たいせつな人失ひし夏過ぎてどつと波打つ大すすき原》
 岡部さんはいま、がんの手術から7年たった。体調は手術前と変わらない。「短歌とがんは相性がいい」とよく考える。作者は闘病時の思いを端的に表現でき、読者はその31文字の中から作者の心象風景に思いをめぐらす。
 「がんを体験した歌人だからこそ、伝えられる新境地がきっとあると思います」
 河野さんの歌に助けられたように、いつか、自分の歌もだれかを救うことがあるかもしれない。
 (石川雅彦)
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