GL変更の可能性も、J-DOIT3厳格介入の成果で【糖尿病学会2019】
国立国際医療研究センター・植木浩二郎氏の報告
MMJ2019年8月30日 (金)配信 一般内科疾患内分泌・代謝疾患
第62回日本糖尿病学会年次学術集会(会長・山田祐一郎秋田大学大学院医学系研究科内分泌・代謝・老年内科学講座教授)が5月23~25日、仙台市内で開かれ、24日にはシンポジウム13「J-DOIT3の成果を実臨床に活かす」があった。国立国際医療研究センター研究所糖尿病研究センターの植木浩二郎センター長は「J-DOIT3 介入研究の成果と課題」をテーマに発表し、現在のガイドラインよりも厳格な介入で脳血管障害、腎症、網膜症を減少させたことから、将来のガイドラインの変更につながる可能性があるとした。(MMJ編集長・吉川学)
低血糖増加も重篤例は極めて少ない
植木センター長はまず、最近の抗糖尿病薬大規模試験結果では、良好な血糖コントロールを長期間続けることで心血管イベントが抑制されていると説明。約8年にわたる多因子介入試験Steno-2では、早期からの統合的介入が寿命の延長につながることを示したが、解析対象が80人前後で不十分だと指摘。そこで、日本糖尿病学会推奨の基準を達成した場合と、さらに強化した場合を比較する大規模な糖尿病予防のための戦略研究J-DOIT3に取り組んだと話した。
対象は、全国81施設の高血圧か脂質異常症がある45歳から69歳までの2型糖尿病患者2542人。強化療法群(HbA1c<6.2%、血圧<120/75mmHg、LDLコレステロール<80mg/dL)1271人と、従来治療群(HbA1c<6.9%、血圧<130/80mmHg、LDLコレステロール<120mg/dL)1271人にランダムに割り付け、2006年6月から2016年3月まで平均で8.5年間介入した。主要評価項目は死亡、心筋梗塞、脳卒中、冠動脈・脳動脈血行再建術の複合エンドポイント、副次評価項目は腎症、下肢病変、網膜症の発症・増悪などとした。
HbA1c、血圧、LDLコレステロールのコントロール状況は、強化群で6.8%、123/71mm/Hg、85mg/dL、従来群で7.2%、129/74mm/Hg、104mg/dLとなり、従来群でもコントロールは良好だったとした。強化群の主要評価項目は19%減少したが有意ではなく、あらかじめ規定していたベースライン因子で補正すると24%の有意な減少となった。強化群では虚血性脳梗塞など脳血管イベントが58%と大幅に減少し、腎症で32%、網膜症で14%とそれぞれ有意に減少した。
脳卒中(60件)の危険因子の分析では、54件が脳梗塞でアテローム血栓症とラクナ梗塞が21件ずつだった。強化群で少なく、年齢、大血管症の既往、喫煙、登録時血圧、LDLコレステロールと正に相関した。低HDLコレステロール血症は強い危険因子であると分析した。1996年にスタートした日本人2型糖尿病患者の大規模臨床研究JDCSと比較すると、血圧に差はないが、HbA1cが改善されたとした。目標が厳しいため有害事象が心配されたが、低血糖は増えたものの重篤な低血糖は極めて少なかったと話した。
約8割の患者で追跡研究を実施中
これらから植木センター長は、現在のガイドラインよりも厳格な介入で脳血管障害、腎症、網膜症を減少させたことから、将来のガイドラインの変更につながる可能性があるとした。一方、糖尿病専門医による集学的治療が施されたうえでの結果であり、非専門医でもこのような多因子介入が実行できるのか検討が必要なうえ、70歳以上の高齢者は含まれておらず、後期高齢者においては厳格な介入が有効で安全かは明らかではないとまとめた。また、現在、8割程度の患者の同意を得て、追跡研究を行っており、厳格多因子介入の血管合併症に対するlegacy effectの有無や、今回差がなかった死亡や認知症、骨折、発癌などに対する効果を検証していると話した。
国立国際医療研究センター・植木浩二郎氏の報告
MMJ2019年8月30日 (金)配信 一般内科疾患内分泌・代謝疾患
第62回日本糖尿病学会年次学術集会(会長・山田祐一郎秋田大学大学院医学系研究科内分泌・代謝・老年内科学講座教授)が5月23~25日、仙台市内で開かれ、24日にはシンポジウム13「J-DOIT3の成果を実臨床に活かす」があった。国立国際医療研究センター研究所糖尿病研究センターの植木浩二郎センター長は「J-DOIT3 介入研究の成果と課題」をテーマに発表し、現在のガイドラインよりも厳格な介入で脳血管障害、腎症、網膜症を減少させたことから、将来のガイドラインの変更につながる可能性があるとした。(MMJ編集長・吉川学)
低血糖増加も重篤例は極めて少ない
植木センター長はまず、最近の抗糖尿病薬大規模試験結果では、良好な血糖コントロールを長期間続けることで心血管イベントが抑制されていると説明。約8年にわたる多因子介入試験Steno-2では、早期からの統合的介入が寿命の延長につながることを示したが、解析対象が80人前後で不十分だと指摘。そこで、日本糖尿病学会推奨の基準を達成した場合と、さらに強化した場合を比較する大規模な糖尿病予防のための戦略研究J-DOIT3に取り組んだと話した。
対象は、全国81施設の高血圧か脂質異常症がある45歳から69歳までの2型糖尿病患者2542人。強化療法群(HbA1c<6.2%、血圧<120/75mmHg、LDLコレステロール<80mg/dL)1271人と、従来治療群(HbA1c<6.9%、血圧<130/80mmHg、LDLコレステロール<120mg/dL)1271人にランダムに割り付け、2006年6月から2016年3月まで平均で8.5年間介入した。主要評価項目は死亡、心筋梗塞、脳卒中、冠動脈・脳動脈血行再建術の複合エンドポイント、副次評価項目は腎症、下肢病変、網膜症の発症・増悪などとした。
HbA1c、血圧、LDLコレステロールのコントロール状況は、強化群で6.8%、123/71mm/Hg、85mg/dL、従来群で7.2%、129/74mm/Hg、104mg/dLとなり、従来群でもコントロールは良好だったとした。強化群の主要評価項目は19%減少したが有意ではなく、あらかじめ規定していたベースライン因子で補正すると24%の有意な減少となった。強化群では虚血性脳梗塞など脳血管イベントが58%と大幅に減少し、腎症で32%、網膜症で14%とそれぞれ有意に減少した。
脳卒中(60件)の危険因子の分析では、54件が脳梗塞でアテローム血栓症とラクナ梗塞が21件ずつだった。強化群で少なく、年齢、大血管症の既往、喫煙、登録時血圧、LDLコレステロールと正に相関した。低HDLコレステロール血症は強い危険因子であると分析した。1996年にスタートした日本人2型糖尿病患者の大規模臨床研究JDCSと比較すると、血圧に差はないが、HbA1cが改善されたとした。目標が厳しいため有害事象が心配されたが、低血糖は増えたものの重篤な低血糖は極めて少なかったと話した。
約8割の患者で追跡研究を実施中
これらから植木センター長は、現在のガイドラインよりも厳格な介入で脳血管障害、腎症、網膜症を減少させたことから、将来のガイドラインの変更につながる可能性があるとした。一方、糖尿病専門医による集学的治療が施されたうえでの結果であり、非専門医でもこのような多因子介入が実行できるのか検討が必要なうえ、70歳以上の高齢者は含まれておらず、後期高齢者においては厳格な介入が有効で安全かは明らかではないとまとめた。また、現在、8割程度の患者の同意を得て、追跡研究を行っており、厳格多因子介入の血管合併症に対するlegacy effectの有無や、今回差がなかった死亡や認知症、骨折、発癌などに対する効果を検証していると話した。