中国経済が新型コロナウイルスの感染爆発で大きく揺れている。景気のV字回復を目指して3年弱の「ゼロコロナ」政策を終了させたが、生産や小売りなどの経済活動は以前よりも一段と落ち込む。2023年以降、中国だけでなく世界経済の深刻なリスクとなりかねない。(中国総局 山下福太郎)
小売り・生産 大幅悪化…世界各国リスクに
閑散
30日午後、北京首都国際空港の国際線到着ロビーでは、利用客の姿が相変わらずまばらだった。
中国政府は26~27日、23年1月8日から入国時の5日間の強制隔離の撤廃や中国人による海外旅行の再開を認めた。コロナ禍以前のような日米欧などのビジネス客の往来を回復させ、中国への投資呼び込みを狙った。
だが、23年1~3月に中国と海外を結ぶ発着便の運航予定は、前週と比べ微増にとどまるとみられる。日本が30日、中国本土からの入国者を対象に水際対策を強化し、米国やイタリアなども順次、新たな対策を打ち出したためだ。韓国も30日、1月2日から水際対策を強化すると発表した。
コロナ感染者数は、今月中旬時点で中国国民の17%にあたる約2・5億人に達したと試算される。北京市や河北省は減少傾向となる一方、上海市など日系企業や自動車産業が集積する経済都市では、感染ピークは今後と見込まれる。
15日に発表された11月の小売り売上高は前年同月比5・9%減、鉱工業生産は2・2%増と大きく悪化した。12月以降は消費の落ち込みや工場の停止で一段と悪化するとの見方が強い。ゼロコロナ政策から緩和に急転換した無秩序な政策変更が医療システムに負荷をかけ、混乱が広がった。大和総研の斎藤尚登氏は「中国の23年の経済成長率は4・5%程度を見込むが、感染動向次第で3%にとどまる」と予測する。
国際金融協会(IIF)は11月下旬、23年の世界経済の成長率が1・2%と、リーマン・ショック翌年の09年の水準に低迷するとの見通しを示した。感染爆発が国外に飛び火し、経済規模で世界2位の中国の景気が減速すれば、日本を含めた各国経済は大きな打撃を受ける恐れがある。
強気
これに対し、中国共産党・政府は強気一辺倒だ。ゼロコロナが解除された直後の17日、魏建国・元商務省次官は「23年の経済成長率は8%となり、世界をリードする」との目標を示した。実現はほぼ不可能な水準だが、 習近平シージンピン 国家主席が経済回復を大義名分としてゼロコロナ解除を主導したため、高成長を強調する必要に迫られたようだ。
上海市や重慶市などの地方政府は、「復工復産」をスローガンに陽性でも出勤するよう求めている。少しでも工場の操業を維持する狙いだが、感染者が急増し、逆に全面停止する事態を招いている。今後、経済・財政政策を次々と打ち出し、なりふり構わず成長率の底上げを図る可能性がある。
「逆戻り」懸念
日本の経済界はゼロコロナ終了を歓迎しつつも、「感染拡大に歯止めがかからなければ突然、ゼロコロナに逆戻りするのでは」(経団連幹部)との懸念が根強い。
日本企業が海外投資を進める上で、政策の安定性は重要な判断材料となる。コロナ禍の3年で、米中対立などを背景にサプライチェーン(供給網)から中国を切り離す「脱中国」が進み、工場移転が相次ぐ。近く人口減少に転じる中国が、雇用や社会の安定に必要となる「5%成長」を中長期的に維持するのは一段と難しくなる。
33年に中国の国内総生産(GDP)が米国を上回って世界一になるとの予測を見直し、「米国超えは困難になる」と断じた調査機関もある。
国産ワクチンにこだわる…習政権 治療薬は外国製解禁
中国のコロナ収束には、当局が認可していない欧米メーカーのワクチン導入が欠かせないとの指摘が欧米から上がっている。
習政権は国産ワクチンの接種にこだわる考えだ。既存の国産ワクチンは欧米と比べ効果が低いとされるが、政府公認の国産の放棄は習政権のメンツにかかわるとの見方が強い。
中国は、米ファイザーなどが開発した方式を採用した新たな国産ワクチンの研究開発を急ぐ。だが、中国企業と軍が共同開発した新ワクチンは9月、治験先のインドネシアで緊急使用許可を得た後、中国では使用許可を得られていない。
一方、ファイザーの経口治療薬については12月、一般販売の解禁に踏み切った。
英紙フィナンシャル・タイムズ(電子版)によると、購入が殺到し、多くの病院が入手できない状態という。一部の病院が正規価格の2倍を超える1箱(5日分)8300元(約16万円)で販売していると同紙は伝えた。中国の可処分所得は月平均3000元程度だ。
中国政府は30日、米製薬大手メルクが開発した飲み薬の輸入も条件付きで承認したと発表した。それでも当面は治療薬の購入が難しい状況が続きそうだ。
中国では来年1月の春節(旧正月)で人の移動が増え、都市部が中心だった感染拡大が農村に波及することが懸念される。
中国疾病予防コントロールセンターの疫学首席専門家・呉尊友氏は、来年3月中旬にも全国的な感染はピークを越えるとみているが、厳しい感染対策を放棄した中国で速やかに感染が収束するかは見通せない状況だ。(中国総局 田川理恵)