presented by hanamura ginza
梅雨時の曇り空が広がる日がつづいていますが、
台風が持ち込んだ温かい空気からは、
夏の気配が感じられますね。
今日、6 月 21 日は 1 年でもっとも日が長い夏至の日です。
晴れて、日の長さを実感できる陽気になれば良いですね。
北欧などでは、夏至の日には夏至祭が行われるようですが、
日本では、この時季がちょうど梅雨時になるためか、
夏至の日を祝う行事は少ないようです。
その中でも、関西地方では
夏至から数えて11日目を半生夏(はんげしょう)と呼び、
蛸を食すという風習があるようです。
この風習には、春に植えた稲が蛸の足のように根をはって、
地面に広がりつくようにという願いが込められているようです。
蛸といえば、関西地方に位置する兵庫県の
明石海峡で獲れる「明石蛸」はとくに人気ありますが、
ちょうど夏至の頃は、
この明石蛸が旬の時季でもあるようです。
この蛸を獲る道具といえば、
蛸壺が有名ですね。
蛸壺とは、かまぼこ状の素焼きの容器を横にして、
そこに蛸を誘導させる道具ですが、
現在ではこの蛸壺によって蛸を捕獲することはほどんどなく、
大きな網を海中に沈めて捕獲する底びき網漁が主流のようです。
魚介類を獲る際には、
さまざまな網が用いられますが、
一見すると網で捕まえるのが難しそうな蛸も、
例外ではないようです。
漁業で用いられる網は、「漁網(ぎょもう)」と呼ばれ、
その編み方によって、さまざまな種類のものがあり、
捕獲する魚によってその種類を使い分けします。
日本でこの魚網は、すでに縄文時代の頃から使われていました。
四方を海に囲まれている日本では、
古くから漁業が盛んだったため、
なじみ深いものだったのでしょう。
一方、世界各地でも遠い昔から使われていたようです。
ヨーロッパでは、伝統工芸品のひとつにレース編みがありますが、
このレース編みは漁網の技術が発展したものともいわれています。
日本の伝統文様には、この漁網をモチーフにした
網干(あぼし)文様とよばれるものがあり、
着物の意匠としても、用いられています。
網干文様は、海辺で三角錐(さんかくすい)状に干された魚網が
文様化されたもので、
江戸時代の頃に考案され、
当時つくられた小袖や帷子(かたびら)などに頻繁に登場します。
その多くは、千鳥や流水などの文様と組みあわせ、
海辺の風物をあらわすものでした。
また、琉球紅型にもこの網干文様は度々登場します。
当時、魚網によって大量に魚を獲る技術が
近畿地方から全国に広まりました。
また、魚網を用いたさまざまな漁も考案され、
魚網による漁が盛んに行われていたようです。
当時は海辺を歩くと網干文様のような光景が
いたるところで見られたのでしょう。
上の写真は、紬地に紙布(しふ)で、
網干と千鳥の文様があらわされた八寸帯です。
紙布の風合いが網干文様に立体感をもたらしていて、
千鳥のかわいらしさを引き立てています。
さて、すこし壮大なお話しになりますが、
現在この漁網が、「スペースデブリ(宇宙ごみ)」を捕るための道具として、
注目されています。
「スペースデブリ」とは、役目を終えた人工衛星や、
宇宙飛行士が落とした手袋や工具などの人工物体を指し、
こうしたものは、除去されることなく、
そのまま地球の衛星軌道上に漂っているのです。
スペースデブリのひとつひとつは、大きなものではありませんが、
その速度がとてつもなく速く、破壊力が大きいため、
衝突するとたいへんな事故になってしまいます。
現在、スペースデブリは 4500 トンも存在するといわれ、
深刻な問題になっています。
そこで現在、このスペースデブリを除去する
さまざまな方法が考えられているのですが、
その中のひとつに、スペースデブリを網で捕獲して、
大気圏へ再突入させて燃やしてしまおうというものがあり、
金属で編んだ網の改良が進められています。
この網の開発をしているのは、
魚網を作っている日本の老舗会社ということで、
まさに魚網の技術が用いられているのです。
この開発が成功すれば、
漁業で活躍していた魚網が、
宇宙でも活躍する姿を
近い将来見ることができるかもしれません。
そのときには、網干文様と一緒に、
星の文様が描かれるようになるのかもしれませんね。
※上の写真の「網干に千鳥文 紬地 八寸帯 」は 6 月 22 日(金)に花邑銀座店でご紹介予定の商品です。
花邑 銀座店のブログ、「花邑の帯あそび」次回の更新は 6 月 28 日(木)予定です。
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