花邑の帯あそび

1本の帯を通して素敵な出会いがありますように…

「馬文様」について

2012-11-29 | 文様について


presented by hanamura ginza


まもなく 12 月ですね。
年の瀬まであとわずかということで、
年末の忙しさの中、ふと今年を振り返ることも多くなりました。

さて、年末年始には、お参りや初詣のために、
神社やお寺を訪れる機会が増えますね。
神社やお寺には、古来から続く日本ならではの慣習が
反映されたものが多くあり、
そういったものの由来を知ると、
日本の文化や歴史を再認識することができます。

新年を迎えるときなどに
願いごとを書く「絵馬」もそういったもののひとつで、
この絵馬の由来は、その名前のように
「馬」と深い関わりがあります。

馬は、古代の日本で神さまの乗り物と考えられ、
祈願のときには、神社に本物の馬が献上されていました。
しかし、当時の日本では馬がたいへん高価だったことと、
境内で馬を飼育することが困難だったことから、
本物の馬の変わりに馬を描いた絵を
奉納するようになったということです。

この絵馬の由来をはじめ、
馬は、日本だけではなく、世界中でも人類の歴史と深い関わりをもつ動物です。

今日はこの馬文様についてお話ししましょう。

馬は太古の昔から人間の近くに棲息していた動物で、
西洋では、35,000年前の旧石器時代の遺跡から、
馬の絵が描かれた壁画がみつかっています。

西洋では牛や羊などと同じように
食用として馬を飼育していましたが、
やがて食用ではなく、荷物などを載せた荷台を引くために、
馬を飼育するようになったようです。

馬に荷台を引かせる習慣は、
紀元前 3500 年前のメソポタミアで考案され、
エジプトを経て、ギリシャ、ローマに伝わり、
ヨーロッパ全域に広まりました。

また、騎馬の技術も発展し、
その技術力の高い民族が戦闘で勝利をおさめるといわれたほど、
戦場でも欠かせないものになりました。



上の写真の洒落袋帯は、
ギリシャ文明をモチーフにして絵柄が織り出されたものです。
鎧をつけた騎士と馬の取り合わせは、
古代のヨーロッパを象徴する絵柄として、
現在でもよく知られていますね。
木屋太製ならではの洗練された雰囲気が漂う
モダンな意匠となっています。

西洋では馬が古来より文様化され、
紀元前 400 年前につくられたペルシャ絨毯にも、
馬の絵柄が織りあらわされています。

また、中国では唐の時代にペルシャから伝えられ、
馬の文様を模倣した天馬文様があらわされました。
明の時代には、波の上を走る海馬文様などが
磁器にもあらわされるようになりました。

一方、日本に馬が大陸からもたらされたのは、
4 世紀末から 5 世紀の初頭です。
同時に騎馬の技術も伝えられたようで、
この時代の遺跡からは、馬の骨とともに、
騎馬のときに用いる馬具も出土されています。
また、この時代につくられた埴輪にも、
馬型のものが多く見られます。
飛鳥時代には、通信手段として馬が用いられ、
各地で馬が飼育されるようになりました。

平安時代になると、白馬が吉祥の動物とされ、
お正月に宮中で白馬を鑑賞する
「白馬節会(あおうまのせちえ)」が行われました。
また、馬を競い合わせる「競馬式(こまくらべ)」も
神事として行われていたようです。
この競馬式はやがて神事から娯楽へと変わり、
現代のように賭け事としての競馬も行われるようになりました。

当時、馬は金と並んで東国の産物とされ、
平家物語では、関東地方の武者が
騎馬に巧みであったことが記されています。

やがて、室町、鎌倉時代になると、
武士のしきたりのひとつに騎馬が取り入れられ、
軍事物資としても馬が貴重な存在となっていきました。

平安時代には娯楽にもなっていた競馬は、
武士のたしなみのひとつとされるようになり、
騎射(きしゃ)、流鏑馬(やぶさめ)、犬追物(いぬおいもの)などの
行事が盛んに行われるようになりました。

ちなみに、この武士による競馬の伝統は江戸時代の中期までつづき、
江戸幕府は、江戸の高田に馬術の稽古場をつくりました。
この場所が現在のJR山手線の「高田馬場」になります。

安土桃山時代になると、当時の有名な絵師たちが競って絵馬をつくり、
それらの絵馬を飾る絵馬堂が建てられるようになりました。

江戸時代になると絵馬は庶民の間にも広まり、
さまざまな絵馬が作られるようになったそうです。

さて、このように日本の文化にも縁の深い馬ですが、
着物の意匠となったものは少なく、
陶器などに描かれる場合が多いようです。

その馬の文様の中に、「左馬(ひだりうま)」とよばれる馬の文様があります。
これは、左方向に走る馬の様子をあらわした「馬」という漢字に対し、
右方向に走る馬の様子をあらわした馬の絵図のことを指します。

この「左馬」の絵図は、
「馬」の裏返しということで、舞う(まう)という意味合いを込め、
福が舞い降りるという意味合いや、
「左うちわ」や「右にでるものなし」という意味合いがあり、
吉祥の文様として、将棋の駒や商売繁盛のお守りなど、
さまざまなものに用いられてきました。



上の写真の名古屋帯は、昭和初期頃につくられた
和更紗からお仕立て替えしたものです。
馬に乗る人物の顔が将棋の駒になっているという
たいへん珍しい意匠のものですが、
こちらも吉祥の動物とされた白馬が、
左馬となっています。

こちらはもともと、羽織の裏地に用いられていた和更紗布ですが、
絵馬に願い事を書くように縁起の良い意匠を身にまとい、
福を招いていたのでしょう。

※上の写真の「木屋太製 ギリシャ神話文 洒落袋帯」は花邑銀座店でご紹介している商品、「馬に駒文様 和更紗 名古屋帯」は 12 月 1 日(土)に花邑銀座店でご紹介予定の商品です。

花邑 銀座店のブログ、「花邑の帯あそび」次回の更新は 12 月 6 日(木)予定です。

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