花邑の帯あそび

1本の帯を通して素敵な出会いがありますように…

「蕨(わらび)文様」について

2012-08-30 | 文様について

presented by hanamura ginza


まもなく9月ですね。
暦の上では処暑を迎え、
暑さも峠を越える時季となります。
今年は残暑が厳しく、
東京では、猛暑日となる日もありますが、
夜には、どこからか虫の声が聞こえるようになり、
すこしずつ、夏から秋へと
季節が移りかわっているのだと感じられます。

過ごしやすい秋は、
お出かけするためのお洒落にも、
より一層気持ちが入る季節ですね。

花邑銀座店では、これからの季節の装いに向けて、
毎年ご好評いただいている
「更紗の帯展」を 今年も 9 月 1 日から催す運びとなりました。

江戸時代後期~昭和初期につくられた
和更紗やヨーロッパ更紗など、
お出かけするのが楽しくなるような、
洒脱なお色柄の更紗を素材に
厳選してお仕立てしました。

花邑銀座店のウェブサイトでも
9 月 1 日に新着の秋冬のお着物と合わせて
「更紗の帯展」で展示する全商品をご紹介します。
異国情緒漂う更紗布の魅力を
少しでも感じていただければ、幸いに存じます。

今日はその「更紗の帯展」でご紹介する帯のなかから、
和更紗の意匠としてはたいへんめずらしい
「蕨(わらび)文様」について、お話しましょう。

蕨は、日本を原産地とするシダ植物の一種です。
茎の先端が、くるっと渦巻状になっている姿が特徴で、
春から夏にかけて、日当たりの良い草原や林に、その姿をみることができます。
古くから山菜として食用にされてきた植物なので、
日本人にとっては、馴染み深い植物ともいえます。

現在でも人気の高い「わらび餅」と呼ばれる和菓子も、
蕨の地下茎から採れるでんぷん(わらび粉)が原料となっています。

蕨からでんぷんを採り、食用にしたのは、
縄文時代のころからのようで、
わらび餅は、日本人にとってお米より長い歴史がある食べ物なのです。

また、蕨は食用だけではなく、
そのかたちの面白さから、
古来より装飾にも用いられています。

古墳時代の古墳や遺跡から発掘された刀装具には、
その柄頭(つかがしら)※1に、
渦を巻いた装飾が施されているものが多いのですが、
この装飾は蕨のかたちからヒントを得たものとされます。
このような刀装具は蕨手刀(わらびてとう)とよばれ、
そこには呪術的な意味合いが込められているようです。

また、春に芽をだし、先端が巻き込まれた新芽の姿は、
早蕨(さわらび)とよばれ、
俳句では春の季語にもなっています。
この早蕨は、万葉集にもその名前をみることができます。

江戸時代には、絵師の俵屋 宗達(たわらや そうたつ)や
尾形光琳(おがた こうりん)などの画風を取り入れた
「琳派(りんぱ)」に属する絵師たちに
絵のモチーフとして好まれました。

蕨文様は、着物の意匠にも用いられましたが、
花文様や茶辻文様に比べ、
その数は多くありません。

それでも、どこかかわいらしく、風情が感じられる蕨文様は、
昔から風流な意匠として、密かな人気があります。

下の写真の名古屋帯は、大正~昭和初期につくられた和更紗から
お仕立て替えしたものです。
どこかアールヌーボー風の趣きを感じさせる
蕨文様がかわいらしいですね。



ちなみに、下の写真の和更紗も、今回ご紹介するものですが、
こちらは、諸国の名産品があらわされた和更紗です。



この和更紗が作られたのは昭和初期頃のようですが、
江戸時代に人気だった名物品があらわされているようです。

小田原ういろうやあべ川餅など、
現在でも名産品として残っているものも多くありますね。
その中に、「川崎大師 わらびもち」というモチーフがあります。
川崎大師といえば、現代ではくず餅が有名なので、
首をかしげてしまいます。

実は、葛の粉を原料にしたくず餅の原型は、
室町時代に考案されているようですが、
その当時から、そのお餅のことを「わらび餅」とよんでいたようです。
そして、そのよび名は江戸時代後期まで
庶民の間に、定着していました。
川崎大師では、江戸時代後期に
現代のような「くず餅」という名前が正式につけられたということです。

こういった庶民の暮らしに根付いた事柄が、
文様として残っているというのも、
更紗をはじめとする古布の魅力のひとつですね。

(※1)柄頭とは、刀の切っ先と正反対の位置にあたる金属製の部品。

※上の写真の「早蕨文様 和更紗 名古屋帯」と、「諸国名物文様 和更紗 名古屋帯」は、9月1日に「更紗の帯展」にて花邑銀座店でご紹介する商品です。

花邑 銀座店のブログ、「花邑の帯あそび」次回の更新は 9 月 6 日(木)予定です。

帯のアトリエ 花邑-hanamura- 銀座店ホームページへ
   ↓