presented by hanamura ginza
早いもので、今年もまもなく折り返し地点の 6 月です。
雨の冷たさもそれほど気にならない陽気が続き、
東京では、紫陽花が白い蕾をつけています。
葉が茂りはじめた木の上からは、
にぎやかな小鳥のさえずりが聞こえてきます。
今年の春に生まれたヒナたちも、
そろそろ巣立ちを迎える時期なのでしょう。
私の住んでいる町には、
駅から長い商店街があるのですが、
毎年、春から初夏にかけては、
その商店街のあちこちの軒先に
ツバメが巣をつくります。
目の前をすっと横切るように飛ぶツバメの行方を追うと、
巣の中で小さなツバメのヒナが黄色いくちばしを菱形にして、
一斉にえさをねだっている姿を見ることができます。
急ぎ足で駅へ向う人々も、
ヒナたちの愛らしい姿を目にすると
ふっと足を止めて顔をほころばせています。
ツバメは人が住んでいるところを好んで巣をつくるため、
私と同じように、商店街や、家の軒先で
その姿を見かけたことがある方は
結構多いのではないでしょうか。
ツバメは、昔からなじみ深い鳥として物語に登場したり、
絵画や調度品などのモチーフとなってきました。
着物の意匠においても、
昔から人気のあるモチーフのひとつです。
今日は、このツバメの文様について、
お話ししましょう。
ツバメはスズメ科に属し、世界各地に棲息する鳥です。
日本で見られるツバメの多くは渡り鳥として、
春になるとフィリピンや台湾、インドネシアなどの南方から
日本列島にやってきます。
春から夏にかけた季節は、
草木が生い茂り、餌となる昆虫が多いので、
この餌を目当てにしてやってくるといわれています。
そして、秋になるとまた南に帰っていきます。
多くのツバメは、毎年同じ巣に戻り、
カラスなどの天敵から身を守るために、
人の出入りが多い場所を選んで巣をつくります。
そのため、ツバメの巣がつくられた商家は
「人の出入りが多い=商売が繁昌している」
とされ、ツバメの巣は商売繁盛の印にもなっています。
一方、農家でもツバメは稲につく害虫を食べるため、
大切にされてきました。
ツバメの巣がある家は安全である
という言い伝えもあります。
また、ツバメはよく子どもを育てるので、
古くから縁結びと安産の象徴
とされてきました。
平安時代につくられた『竹取物語』には、
「燕の子安貝」という逸話があります。
かぐや姫が 5 人の求婚者に出した難題のうちの1つが
「燕が出産時に使う子安貝を持ってくる」というもので、
求婚者の石上麻呂がそれを入手するために
四苦八苦するというお話です。
「子安貝」は、文字通り貝の一種で
こちらも安産のお守りとされていました。
この話からわかるように
すでに平安時代には、ツバメが縁起の良いもの
とされていたようです。
江戸時代には小袖の意匠に
ツバメの文様が多く用いられていたようです。
とくに柳との組み合わせはもっとも人気の高かったモチーフで、
初夏から盛夏にかけての装いにあらわされました。
上の写真は、昭和初期につくられた絽の着物から
お仕立て替えをしたものです。
柳をなびかせる風に乗って
ツバメが滑るように飛ぶ姿が
愛らしくあらわされていますね。
海外でも、『幸福な王子』に出てくるツバメのように、
ツバメはときに物語の主人公になったり、
重要な役割をはたしていることが多いようです。
毎日駅へと向かう道すがら、
商店街を飛び回り、
子育てに奮闘する親ツバメの姿を見るにつけ、
この季節ならではのさわやかな空気が
心の中にも入り込んでくるようで、
とても清々しい気持ちになれます。
ツバメがいつまでも安心して巣をつくれるような
街であってほしいものです。
※上の写真の「柳に燕文 絽 名古屋帯 」は6月1日(金)に花邑銀座店でご紹介予定の商品です。
花邑のブログ、
「花邑の帯あそび」次回の更新は6月7日(木)予定です。
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