花邑の帯あそび

1本の帯を通して素敵な出会いがありますように…

「葦(あし、よし)文様」について

2011-12-07 | 文様について

presented by hanamura ginza


大寒を迎え、頬にあたる風が氷のように冷たく感じるようになりました。
年の瀬も近づき、季節もいよいよ真冬になります。

花邑銀座店では、厳しい寒さのなかでも、
顔が思わずほころぶような
動物をモチーフとした
「動物の帯展」を開催しています。

おかげさまでご好評いただき、
ひとつひとつ(1匹1匹)と
ご縁をいただき、お店から巣立っております。

動物の文様については、それぞれの商品ページ、
もしくはお店でご紹介させていただくとして、
今日は、こちらの帯の意匠のなかに配されている、
一部の文様についてお話しします。




上の写真の名古屋帯
は、
大正~昭和初期につくられた絹紬からお仕立て替えした名古屋帯です。
葦が生えている水辺に、雀が集った光景をあらわしたものです。

みなさん、いま「葦が生えている水辺」のところで、
「葦」を何と読まれましたか?
「あし」でしょうか?
「人間は考える葦(あし)」である」とは、
パスカルの言葉ですからね。
それでも「よし」と読まれた方も
なかにはいらっしゃるでしょう。

正解はどちらともいえないのですが、
国語的、生物学的にはやはり「あし」が正解です。
ただし、「よし」でも間違いではありません。
日本の文化では「よし」と読む場合も多くあるのです。
縁起を担ぐことの多い日本では
「あし」は「悪し」に通じることから、
「よし」(良し)と読みかえられているためです。

このあたりは、お酒の肴の「スルメイカ」を
「スル」は賭け事などで験が悪いことから、
「あたりめ」と言いかえているのと同様ですね。

今日はその葦の文様についてです。

葦は、水辺に生えるすらりとした背の高いイネ科の植物です。
葦が生えた水辺にはたくさんの鳥や魚が集まります。

それは、葦が生えているとそこに泥がたまり、
その泥の中に住む微生物を食べに、
さまざまな虫がやってくるからのようです。

その虫たちは鳥や魚にとっての
貴重な栄養源となります。
また、葦の茎は鳥や魚にとっての隠れ場ともなるのです。
葦が生える水辺は鳥や魚にとって、
憩いの場といったところでしょうか。

この葦は、世界中の水辺に生えていて、
人々とっても、遠い昔からなじみ深い植物のひとつです。

日本では、日本神話に葦でつくった船が登場し、
万葉集でも葦を題材にした詩が数多く詠まれています。

また、葦の茎は軽くて丈夫なことから、
さまざまなものの材料にも、用いられています。

奈良時代には、葦を用いた管楽器がつくられ、
平安時代には、葦の茎を矢、桃の木を弓にした、
葦矢(あしや)とよばれる弓がつくられました。
この葦矢は邪気を祓うとされ、
朝廷では大晦日の日になると、
葦矢を飛ばす儀式が行われていました。
この葦矢がもとになり、
現在でも初詣で配られる「破魔矢」に
葦の茎が用いられていることもあります。
また、葦簀(よしず)とよばれるすだれの材料や、
茅葺(かやぶき)民家の葺(ふ)き替えにも使用されています。

葦は平安時代の頃より文様化され、
お着物や調度品などの意匠に取り入られるようになりました。
とくに、水辺の風景をあらわしたものには、
葦と水鳥を組み合わせたものが多く見られます。
そのなかでも代表的なものは、
葦と雁を組み合わせた「葦雁(あしかり)文様」とよばれるもので、
秋の風情をあらわす意匠とされています。

そのほかにも、葦の茂みから見える小舟をあらわした
葦船 (あしふね)文様、
蛇籠と葦を組み合わせた蛇籠葦文様などがあります。

また、平安時代には葦手文(あしでもん)と呼ばれる
遊戯的な文様も考案されました。
葦手文とは、文字を葦の葉がたなびいているかのようにあらわしたもので、
葦に紛らせたこの絵文字を
水辺の風景のなかにだまし絵のように配しました。

かな文字が考案された当時、
人々は目新しいかな文字の美しさを
葦手絵としてあらわすことに熱中したようです。

この葦手絵がもとになり、同じくだまし絵のように
和歌や物語の主題に登場する器物などを配した
「歌絵」とよばれるものも考案されました。

葦手文は、室町、鎌倉時代につくられた
蒔絵などにも盛んに用いられました。

やがて江戸時代になり、
庶民も古典文学を楽しむようになると、
洒脱な意匠の葦手文や歌絵が多くつくられるようになりました。

念のためですが、
上の写真の帯の意匠の葦に
隠された文字などはありません。
葦は脇役に徹していて、
ふっくらとした雀がとても愛らしく描かれています。

葦の生える水辺には、
花のような華やかさはありませんが、
自然の恵みをもたらす葦の周囲には
さまざまな生き物が集い、
生命力の象徴となっているのです。

意匠のなかの雀は、おいしいごはんを
食べ終えたところなのでしょうか。
満足気におしゃべりをしているようにも思え、
楽しげな鳴き声までも聞こえてきそうですね。

上の写真の「流水に雀文様 型染め 名古屋帯」は花邑銀座店でご紹介している商品です。

花邑のブログ、「花邑の帯あそび」次回の更新は11月14日(水)予定です。


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