花邑の帯あそび

1本の帯を通して素敵な出会いがありますように…

「樹木文様」について

2011-09-14 | 文様について

presented by hanamura


残暑が厳しい日が続いていますが、
気がつくと日が暮れるのも早くなり、
夜が少しずつ長くなっています。

中秋の名月の日は
日本各地で晴天だったようで、
お月さまを堪能された方も多いのではないでしょうか。

街灯などが多い都心でも、
いつもより心なしか夜道が明るく感じられました。

お月さまの青白い光に照らされた木々や草花のなかで、
虫たちの鳴き声が響き、しばし月光浴を楽しみました。
月光浴には浄化作用があるともいわれています。

古来より、人々はそういった月や太陽などの自然から、
力を得ることができると信じて、自然を崇拝してきました。

今日お話しする樹木文様も、
そういった自然が持つ生命の力を崇拝し、
あらわしたものです。

樹木文様は、西欧などでは聖樹文様ともよばれ、
世界各地で見られる文様です。

この聖樹文様は、古来より崇められていた
生命の樹を意匠化したもので、
由来となった生命の樹とは、
1 本の木を生命力の源とし、
豊穣や繁栄の象徴としています。

生命の樹はエジプトの神話やインドの聖典、聖書にも登場し、
仏教の宇宙樹、ペルシャの神秘の樹、イスラム教の天上の樹など、
その姿を少しずつ変えながら、広く信仰されてきました。

その歴史も古く、紀元前 3000 年前の古代ギリシャの遺跡では
動物や聖獣を配した聖樹文様の印章が発掘されています。

聖樹文様にあらわされている木は、
その土地や風土により、さまざまなバリエーションがあり、
古代エジプトではナツメヤシやイチジク、
ギリシャではザクロ、中国では桃などがモチーフとなっています。

ちなみに、ペルシャ絨毯によく用いられるペーズリー文様も、
この生命の樹が由来となっているのです。

聖樹文様があらわされているものは、
西欧の美術品などに多く見られますが、
インドでつくられた更紗にも、数多く見受けられます。

森羅万象に神々が宿るとするヒンドゥー教では、
聖樹文様は森羅万象に力をもたらすものとしてあらわされ、
その枝にはさまざまな種類の花が配されていて、
その神秘的な力が表現されています。
とくにがヒンドゥー教広く信仰されていた
南インド地域でつくられた印度更紗には、
その生命の樹の下に集う動物たちの図が
精緻にあらわされているものが多いようです。



上の写真の和更紗は、明治時代に日本でつくられたものですが、
枝分かれした先に花が配された樹木の文様は、
印度更紗に見られる聖樹文様を思わせ、
のびやかなタッチからは生命の活力が感じられます。

日本では、松や梅が生命の樹になります。
印度更紗やペルシャの染織品にみられる聖樹文様のような
にぎやかな楽園のイメージではなく、
風雪に耐えながらもたくましく成長する松や梅が
子孫繁栄や不老長寿の象徴とされました。

松や梅以外の聖樹文様も
あることはありますが、多くはありません。
そのような希少な種類の聖樹文様は
近代になってから見られるようになったものです。

下の写真の名古屋帯は、結城紬地に、友禅染めで樹木文様をあらわしたものです。



葉が散って、枝だけになった樹木は、
印度更紗に見られるような華やぎはありませんが、
けっして寂寥感だけではなく、次の季節への期待もが感じられる
あたたかなタッチが魅力的な意匠です。
冬の丘に立つ樹木の凛としつつもおだやかな佇まいからは、
葉を落とした木でありながら、
樹木文様独特の生命力が感じられます。

※上の写真の和更紗の名古屋帯樹木文様の名古屋帯は花邑銀座店でご紹介している名古屋帯です。

花邑のブログ、「花邑の帯あそび」次回の更新は9月21日(水)予定です。

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