花邑の帯あそび

1本の帯を通して素敵な出会いがありますように…

「麻の葉文様」について

2011-08-17 | 文様について

presented by hanamura


初秋を迎えたのにもかからわず、
夜になっても蝉の声が聞こえてくる
蒸し暑い日が続いています。

この時期、東京ではいたるところで盆踊りが催されているため、
団扇を手にした浴衣姿の人たちを多く見かけます。

浴衣や団扇などに用いられる文様は、
流行を取り入れた華やかなものが多いのですが、
定番の伝統文様も変わらずに好まれているようです。
今日は、その伝統文様の中でも人気の高い
「麻の葉文様」について、お話しましょう。

麻の葉文様は、
「麻」=大麻の葉を意匠化したものです。
六角形を基礎とした幾何学的な文様は、
現在見てもモダンで、
普段お着物をお召しにならない人たちにも人気があります。
着物や帯以外にも手ぬぐいや、バックなどの意匠にもなっていますね。

下の写真の大島紬は、一元(ひともと)絣で
麻の葉文様が織りあらわされたものです。
幾何学的な文様が泥染めの深い茶色の地に美しく映えています。



麻の葉文様の素材となった麻は、世界各地で自生する植物で、
古来では、食べ物や衣類をつくるための大切な原料として
欠かすことができないものでした。
そのため、古くから麻の栽培がされていました。

日本でもすでに紀元前には麻が栽培されていて、
『魏志倭人伝』にその記述が見られます。

古来の日本では、絹はたいへん高価なもので、
また、木綿は戦国時代まで栽培されていなかったため、
衣類や紐、袋などの原料にはすべて麻が用いられました。
麻は生活を支える植物として、
神聖なものとされていたのです。

そのような古来の名残りは現在でも見ることができ、
神社の鈴縄(すずなわ)や注連縄(しめなわ)、
相撲の際に横綱が締める注連縄など、
神事に用いられる神聖な縄は麻を素材としています。

麻は、4月頃に種が蒔かれるとすくすく伸びて成長し、
7月中旬~8月中旬のお盆のころには刈り取られます。

万葉集には、麻を詠んだ作品が多く残されていますが、
その中で、「夏麻引く(なつそびく)」という言い回しがあります。
「夏麻引く」とは、麻を刈り取るという意味で、
夏の青空の下で緑色の麻が刈り取られる清々しい情景を想像させ、
現代でも夏の季語となっています。

このように、麻は常に人々の身近にあって親しまれていたため、
平安時代の頃には文様化されました。
当時つくられた仏像の装飾には、
麻の葉文様があらわされています。

また、鎌倉~室町時代には、
刺繍で仏像や仏教的主題をあらわした繍仏(しゅうぶつ)
に麻の葉文様が配されています。

神聖なものとされていた麻と同様に、
麻の葉文様じたいにも邪気を祓う力があるとされ、
麻の葉文様は魔除けの文様とされていました。

昔の子供の産着などに
麻の葉文様が多くあらわされているのもこのためです。
悪いものから子供を守るとともに、
麻のようにまっすぐ、すくすくと育つようにとの願いが
込められているのです。

ちなみに、忍者の子供が麻の種を蒔き、
一日一日育っていく麻を毎日飛び越えることで
跳躍力を身につけていたというお話は
耳にされたことがある方も多いでしょう。
この逸話もすくすくと伸びる麻の特性をよくあらわしています。

江戸時代には、歌舞伎役者の岩井半四郎などが
舞台で麻の葉文様の衣装を身に着けたことで、
麻の葉文様が庶民の間にも広まり、大流行しました。
また、鹿の子絞りの麻の葉文様と黒繻子を組み合わせた昼夜帯は、
町娘役の衣装の文様として用いられていたため、
麻の葉文様は若い娘たちにもたいへん人気がありました。

当時活躍した浮世絵師の歌川国貞が描いた美人画には、
麻の葉絞りの襦袢を着た遊女の姿もあらわされています。

このように昔から人気の高い麻の葉文様には、
多くのバリエーションがあり、
そのことからも麻の葉文様の人気の高さがうかがえます。

七宝繋ぎにも見える輪違い麻の葉、
麻の葉を松皮菱(まつかわびし)と組み合わせた松皮麻の葉、
網代文様と組み合わせた網代麻の葉
麻の葉の中心がねじれた捻じ麻の葉、
麻の葉の所々が抜けている破れ麻の葉など、
多くの変化形があり、
麻の葉がベースでありながらも
それぞれが独創的な意匠でおもしろみがあります。

このようなバリエーションの多さは、
麻の葉文様の人気もさることながら
麻の葉文様じたいが幾何学的な形であり、
さまざまに変形しやすいことも要因なのでしょう。

※写真は花邑 銀座店にてご紹介しているお着物です。

花邑のブログ、「花邑の帯あそび」次回の更新は8月24日(水)予定です。

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