花邑の帯あそび

1本の帯を通して素敵な出会いがありますように…

「貝合わせ文様」について

2011-02-08 | 文様について

presented by hanamura


立春を迎えて、寒さの中にも、
春の気配が少しずつ感じられるようになりました。

まもなく雛祭りということで、
お雛さまの準備をはじめた方もいらっしゃるのでは
ないでしょうか。

雛祭りは、平安時代の頃より
貴族たちの間で楽しまれてきました。
そのため、お雛様の飾りは、
王朝文化を現代に伝えるもののひとつとも言えるでしょう。

今日は、そのお雛さまのお道具のうちのひとつ、
「貝合わせ」をモチーフにした
文様についてお話ししましょう。

貝合わせとは、蛤の殻を使用した遊びです。

もともとは、平安時代の貴族達が、
蛤の殻の色や形の美しさを愛でてその美しさを競い、
貝を題材に和歌を詠んだりして遊んだものを、
貝合わせとよんでいました。

その一方で、蛤の殻を用いた遊びには、
「貝覆い」とよばれたものもあり、
こちらは、蛤の貝殻をばらばらにして床に伏せて、
同じ貝の身と蓋の部分を一対に合わせられた者が勝ちというゲームです。
いわばトランプの神経衰弱のような遊びです。

このとき、同じ貝殻はぴったり重なり合いますが、
異なる貝殻はまったく重なり合いません。

やがて貝合わせと貝覆いは、
同じ蛤の殻を使用する遊びとして一緒になり、
両方とも「貝合わせ」とよばれるようになりました。

また、同じ貝殻に「源氏物語」や「伊勢物語」の対の場面や、
和歌の上句と下句の文字をあらわすなど、
貝殻を装飾したものもつくられるようになり、
江戸時代には、蒔絵や金箔が施された豪華な貝合わせが
多く制作されました。

美しく彩られた貝は、貝桶という美しい蒔絵などが
施された六角形の箱に入れられ、大切に扱われました。



上の写真は、貝合わせと貝桶をモチーフにした名古屋帯です。
貝桶や散らされた貝合わせのひとつひとつに絵柄あらわされた緻密で美しい意匠です。

貝合わせは同じ貝がぴったり合い、
別の貝とは絶対に合わないところから、
夫婦円満の象徴とされ、
貴族たちの嫁入り道具となりました。

ちなみに、「ぐれる」という言葉は、
貝合わせに用いる「はまぐり」をさかさまにした
「ぐりはま」という言葉が由来となっているようです。
「ぐりはま」は、江戸時代のはじめ頃に用いられていた言葉ですが、
貝が合わない=食い違いや、馴染めないという意味かあったようです。

貝合わせと貝桶をモチーフにした文様は、
江戸時代に着物や帯の意匠として用いられるようになりました。
宮廷文化の薫りが感じられる貝合わせの文様は、
民衆の間で貴族たちの雅な生活への憧れとも重なり、
たいへんな人気となりました。

貝合わせは、自然がもたらした恵みに美を見出した古代の人々の豊かな心が感じられる、
実に優雅な遊びなのです。


※上の写真は花邑 銀座店にてご紹介している名古屋帯の文様です。

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次回の更新は2月15日(水)予定です。


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