良くも悪くも時代の寵児であった。
就職情報誌の草分けである「リクルート」マガジンを創刊するなど一時代を築いた人である。同時に未公開株を政治家などにばら撒いて、戦後有数の大規模贈賄事件を起こした主犯でもある。
東大出身のベンチャー起業家で最も大きな業績を残した人でもある。派手な事件を起こした人ではあるが、江副氏本人はむしろ地味で大人しい人柄であったらしい。
私はかつて大規模な贈賄事件を起こした人として、あまり好意的にはみてなかった。リクルート事件で政治家としての未来を潰された人はけっこう多い。迷惑な人だと思っていた。
だが、あれから数十年経つと、なぜに江副氏があれほどの贈収賄をやらかしのか、その心情が分るようになってきた。
日本社会は規制で縛られている。最も成功した社会主義の国だとの評は、間違いだとは思わない。正確には社会主義ではなく、村の搦蜍`だと思っている。
国土の7割が山地であり、季節の変化が激しく、しかも多雨地帯であり、台風や地震、時には火山噴火や大津波といった自然災害が多い国である。だからこそ、人が住める場所が限られており、その狭い地域で生きていくためには、その地域に即した揩ノ従わねばならない。そうしないと生きていけなかった過酷な歴史がある。
だからこそ村の揩轤驍アとは絶対であった。この流れを引き継いだのが徳川幕府であった。それまで各地方ごとの決り事(村の掾jに乗っかる形で、日本全国津々浦々を支配した。江戸時代を通じて、日本はこの村の揩ノ従うことを当然のこととするようになった。
しかし、この村の揩ノはけっこう抜け穴があった。士農工商の身分制度は厳格に思えたが、養子縁組など上手に活用すれば身分の敷居を飛び越すことも可能であった。人の移動を厳しく制限したが、伊勢参りに代表されるように身分を問わず、旅行が大人気であった。
もちろん制約は多い。抜け道を活用するには大義名分が必要であり、その中には幕府高官との親密な関係が必要なものも多かった。その関係を作る方法は、大きく分けて二通り。
一つは経済的利益すなわち賄賂である。何時の時代でも金銭の誘惑は極めて強い。もう一つの方法が、姻戚関係である。家系図などは男系中心で書かれているから見逃しがちだが、実は配偶者である女性の側の持つ姻戚関係も有力者との伝手を繋ぐ有効な手段である。
日本における村の揩ヘ、明治政府はもとより戦後に民主主義に基づく議会政治のもとでも有効である。私は以前ビジネス系のSNSのチャットルームでわざと鋳?H務店を忠コ工務店と書いて試したことがある。
その時は、十数人チャットに参加者がいたはずだが、私の揶揄に気付いた人は皆無であった。どうやら鋳?H務店創業者一族と、忠コ・元首相の子弟との姻戚関係を知らぬ人ばかりであった。
今も昔も、政治的有力者と財界の有力者との姻戚関係は有効な手段である。そして、これは官界にも云える。特に出世街道にのっている有力なキャリア官僚は、その配偶者に政治家の子弟や、財界の子弟を迎えることは今もしばしば行われている。
気付く人が少ないのは、家系図を男系中心にみるからだ。女性側に着目して、その家計を辿れば容易に分る。もちろん、このような有力者同士の姻戚関係は誰にでも築けるものではない。
だからこそ経済的利益、すなわち贈賄がもう一つの手段として意味を成す。
江副氏のようなベンチャー系事業家にとって最大の問題は、日本における村の揩ナある。この村の揩ヘ、経済的視点で立脚したものではない。だからこそ、事業家にとっては障壁となってそびえ立つ。
学校教師が親という平凡な家庭出身である江副氏には、たとえ東大出身であっても有力者とのコネはなかった。ビジネス上の障壁を超えるためには、どうしても政治家を使って行政を動かす必要があった。彼が選んだ手段は贈収賄しか残されていなかった。
戦後最大の贈収賄事件であるリクルート事件は、日本の揩ノもがき苦しむ民間の事業者だからこそ起きた必然のものであったと私は思っている。江副氏は裁判において執拗に抵抗した。結局は有罪となったが、彼が複雑な思いを胸に秘めていたことは想像に難くない。
これは江副氏だけでなく、後のホリエモンのような意欲あふれるベンチャー系事業家が必ずぶつかるのが村の揩ナある。村の揩ノ潰された江副氏は、沈黙を金として再びビジネスの現場に戻ってきた。
その彼が亡くなる10年ほど前に書き記したのが表題の書である。Jリートという大ヒットした不動産投資信託を分析し、金利の値上がりが始まれば暴落すると予測している。
幸か不幸か、彼の没後も低金利政策が続いているため、未だJリートは安定しているが、彼の予測のように金利が上がれば危うくなる可能性は十分にあると私も思う。
ただし、これは江副氏も指摘しているが利用価値の高い土地、すなわち都市部の一部の不動産は今後も高い価値を保ち続けると思う。反面、過疎化や高齢化により地方の不動産は価値を下げることも十分ありうると私は考えている。
ただ低金利政策の申し子ともいえる不動産投資信託が、今後の不動産市場に与える影響について、私は深く考えていなかった。これはこれで、けっこう勉強になった一冊でした。
就職情報誌の草分けである「リクルート」マガジンを創刊するなど一時代を築いた人である。同時に未公開株を政治家などにばら撒いて、戦後有数の大規模贈賄事件を起こした主犯でもある。
東大出身のベンチャー起業家で最も大きな業績を残した人でもある。派手な事件を起こした人ではあるが、江副氏本人はむしろ地味で大人しい人柄であったらしい。
私はかつて大規模な贈賄事件を起こした人として、あまり好意的にはみてなかった。リクルート事件で政治家としての未来を潰された人はけっこう多い。迷惑な人だと思っていた。
だが、あれから数十年経つと、なぜに江副氏があれほどの贈収賄をやらかしのか、その心情が分るようになってきた。
日本社会は規制で縛られている。最も成功した社会主義の国だとの評は、間違いだとは思わない。正確には社会主義ではなく、村の搦蜍`だと思っている。
国土の7割が山地であり、季節の変化が激しく、しかも多雨地帯であり、台風や地震、時には火山噴火や大津波といった自然災害が多い国である。だからこそ、人が住める場所が限られており、その狭い地域で生きていくためには、その地域に即した揩ノ従わねばならない。そうしないと生きていけなかった過酷な歴史がある。
だからこそ村の揩轤驍アとは絶対であった。この流れを引き継いだのが徳川幕府であった。それまで各地方ごとの決り事(村の掾jに乗っかる形で、日本全国津々浦々を支配した。江戸時代を通じて、日本はこの村の揩ノ従うことを当然のこととするようになった。
しかし、この村の揩ノはけっこう抜け穴があった。士農工商の身分制度は厳格に思えたが、養子縁組など上手に活用すれば身分の敷居を飛び越すことも可能であった。人の移動を厳しく制限したが、伊勢参りに代表されるように身分を問わず、旅行が大人気であった。
もちろん制約は多い。抜け道を活用するには大義名分が必要であり、その中には幕府高官との親密な関係が必要なものも多かった。その関係を作る方法は、大きく分けて二通り。
一つは経済的利益すなわち賄賂である。何時の時代でも金銭の誘惑は極めて強い。もう一つの方法が、姻戚関係である。家系図などは男系中心で書かれているから見逃しがちだが、実は配偶者である女性の側の持つ姻戚関係も有力者との伝手を繋ぐ有効な手段である。
日本における村の揩ヘ、明治政府はもとより戦後に民主主義に基づく議会政治のもとでも有効である。私は以前ビジネス系のSNSのチャットルームでわざと鋳?H務店を忠コ工務店と書いて試したことがある。
その時は、十数人チャットに参加者がいたはずだが、私の揶揄に気付いた人は皆無であった。どうやら鋳?H務店創業者一族と、忠コ・元首相の子弟との姻戚関係を知らぬ人ばかりであった。
今も昔も、政治的有力者と財界の有力者との姻戚関係は有効な手段である。そして、これは官界にも云える。特に出世街道にのっている有力なキャリア官僚は、その配偶者に政治家の子弟や、財界の子弟を迎えることは今もしばしば行われている。
気付く人が少ないのは、家系図を男系中心にみるからだ。女性側に着目して、その家計を辿れば容易に分る。もちろん、このような有力者同士の姻戚関係は誰にでも築けるものではない。
だからこそ経済的利益、すなわち贈賄がもう一つの手段として意味を成す。
江副氏のようなベンチャー系事業家にとって最大の問題は、日本における村の揩ナある。この村の揩ヘ、経済的視点で立脚したものではない。だからこそ、事業家にとっては障壁となってそびえ立つ。
学校教師が親という平凡な家庭出身である江副氏には、たとえ東大出身であっても有力者とのコネはなかった。ビジネス上の障壁を超えるためには、どうしても政治家を使って行政を動かす必要があった。彼が選んだ手段は贈収賄しか残されていなかった。
戦後最大の贈収賄事件であるリクルート事件は、日本の揩ノもがき苦しむ民間の事業者だからこそ起きた必然のものであったと私は思っている。江副氏は裁判において執拗に抵抗した。結局は有罪となったが、彼が複雑な思いを胸に秘めていたことは想像に難くない。
これは江副氏だけでなく、後のホリエモンのような意欲あふれるベンチャー系事業家が必ずぶつかるのが村の揩ナある。村の揩ノ潰された江副氏は、沈黙を金として再びビジネスの現場に戻ってきた。
その彼が亡くなる10年ほど前に書き記したのが表題の書である。Jリートという大ヒットした不動産投資信託を分析し、金利の値上がりが始まれば暴落すると予測している。
幸か不幸か、彼の没後も低金利政策が続いているため、未だJリートは安定しているが、彼の予測のように金利が上がれば危うくなる可能性は十分にあると私も思う。
ただし、これは江副氏も指摘しているが利用価値の高い土地、すなわち都市部の一部の不動産は今後も高い価値を保ち続けると思う。反面、過疎化や高齢化により地方の不動産は価値を下げることも十分ありうると私は考えている。
ただ低金利政策の申し子ともいえる不動産投資信託が、今後の不動産市場に与える影響について、私は深く考えていなかった。これはこれで、けっこう勉強になった一冊でした。