ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

乾燥ワカメ

2020-06-12 12:44:00 | 健康・病気・薬・食事
乾燥ワカメは浮「のよ。

そう教えてくれたのは、20代の時に長期入院していた大学病院の看護婦さんだった。

私の入院していた病棟は難病患者が数多く入院していのだが、基本的に高齢者が多く、若い人は少なかった。いや、女性患者なら若い人はいたが、薬の副作用等で髪が抜けたり、薄くなったりしていたせいか、あまり人前には出てこない人が多かった。

男性患者は圧涛Iに中高年ばかりで、まだ二十代前半の私は飛び抜けて若い患者だった。決して疎外されていた訳ではないが、年があまりに離れすぎて、お年寄りの会話には入りずらかったのは事実だ。

孤立しがちだった私を気遣ってか、時折看護婦さんやヘルパーさんが話し相手になってくれた。当時、私は大量服用していた薬の副作用で、強烈な食欲に悩まされていた。

とはいえ、減塩高たんぱく食という食事療法の最中であり、間食もなかなか気を遣う。私自身、食事療法への関心は強く、それなりに納得してはいたが、この空腹感には本当に参っていた。

なので、看護婦さんと相談して減塩の梅干しのタネを延々としゃぶっていたりして我慢していた。コンニャクを使ったお菓子なども試したが、空腹感は満たされず、むしろ堅いものを長く噛み続けるほうが効果があった。

その頃、私は川島医師の著作で知った板昆布をガムの形に切ったものを間食として齧っていた。お鍋の時の出し取りに使う板昆布は、大き過ぎるので鋏で一口サイズに切ったものを母に作ってもらい、それをオヤツとして退屈な病院暮らしの楽しみとしていた。

この板昆布は本当に堅くて、口の中で噛み続けても、柔らかくなるのに20分くらいかかる。ほのかな塩味と出汁の事。が感じられるが、食べ切るのに最低でも30分はかかる。正直言えば、顎が疲れるほどである。

その日も談話室で、本を読みながら板昆布を齧っていたら、看護婦さんが「あ~、また何か食べてるな。何食べているの?」と訊いてきたので、私はちょっと自慢げにこれは板昆布だと話した。

すると、その看護婦さんはちょっと首を傾げてから、ある患者さんの話をしてくれた。

その患者さんは、糖尿病でカロリー制限を受けていたのだが、やはり間食好きで悩んでいた。退院してもカロリー制限は続くので、それなりに悩んで見つけたのが、乾燥ワカメであったそうだ。

私も味噌汁の具や、海藻サラダを作る際に使うのだが、普通は一度水に戻してふやかしてから料理する。ところが、その患者さんは、乾燥ワカメそのものをスナック菓子のようにボリャ鰍ニ食べていた。

微かな塩味と事。があるであろうことは容易に想像付くが、問題はその量であった。なんと市販の「ふえるワカメちゃん」一袋を半日たらずで食べ切ってしまったのだ。

悲劇はその夜に起こった。お腹が痛い、とにかく痛い。脂汗が出るほどに痛かったそうだ。思い当たるのは、乾燥ワカメになにかばい菌でもついていたのではないかという事。ただ吐き気はなかったが、浮ュなって病院に行くことを決意する。

救急車は嫌だったので、タクシーで病院に行って、その後数時間検査漬け。途中、痛くて痛くて、遂には泣き出してしまった。気が付いたら夜が明けていたことは良く覚えていたそうだ。

若い医師たちが首をひねって原因を探っていると、その患者の主治医がやってきて、前日の食事の内容を聞くと、お腹をさわり納得したように一言。

「こりゃワカメだね」

乾燥ワカメは水を吸うと十倍近くに膨張する。その乾燥ワカメを一袋食べたのだから、小腸や大腸のなかでワカメが膨れ上がっている状態となっていた。急遽処置室で浣腸などをして、体内のワカメを排出させてようやく痛みは引いたそうだ。

看護婦さんは「実はその日の当直が私だったんで、よく覚えているんだよね。もう少し処置が遅れたら、命の危険もあったらしいよ」と淡々と語る、その眼は笑ってはいなかった。

少し焦り気味の私が、板昆布も危ないの?と訊くと、「食べ過ぎなければ大丈夫だと思うよ。でもヌマンタ君、食いしん坊だよねぇ・・・」

やはり、物事は控えめが一番であるようだ。以来、板昆布は一日3枚(ガムサイズ)と決めた。それにしても、ふえるワカメちゃん、恐るべし。
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする