読書な日々

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「大江戸開府四百年事情」

2008年01月01日 | 人文科学系
石川英輔『大江戸開府四百年事情』(講談社、2003年)

最近ちょっと遠ざかっていたけど、またまた石川さんの大江戸物です。今回は江戸時代が265年という最長不倒の記録になるほど、長期にわたる為政を続けることができたのは、結局のところ江戸時代が生きやすい社会だったからではないかという視点から、江戸時代の政治(とくに支配のありかた)、衣食住の暮らしを見た本である。相変わらず、マルクス主義歴史学(唯物史観)をこてんぱんに批判する、生きのいい石川節が健在だ。

第一に、江戸時代が権力と富力を分離する、じつに巧妙な統治形態をとることで、権力者のもとに富が集中するのを防いだことが、社会批判を生じさせないという良い結果を生んだと主張する。

たしかにヨーロッパの近代国家はどこも権力と富力が集中するようになっていることを考えると、徳川家だって400万石の直轄地からの収益で運営していたわけで、それ以外の収入はなかったのだろう。それに老中など実際に政治を行う大名が小大名だったというのは初めて知った。なるほどね、実際に政治を行う大名は50万石前後の小大名で、旗本なんかはもっと小さかった。そして島津、伊達、前田などの巨大大名は外様で、自国内以外にはその権力が及ぶことがなかった。たしかにオモシレェ。

第二に、暮らしの運営が、警察関係の仕事も含めて、庶民の自治的運営に任されていた結果、武士階級とそれ以外の階級はまったく違う社会に住んでいるくらいの日常生活や規律があり、犯罪も少なかったという、暮らしやすい社会だったと主張する。

著者は武士階級が庶民を統括する警察組織関係の役人が大江戸100万人の暮らしの中にわずか20数人しかいなかったこと、そしてその手下も含めて200数十人しかいなかったことを挙げている。それ以外は庶民が自主的に作り上げた大家とか家主とか名主などを中心とした人間関係の中で処理されてきたので、調停が中心で、裁判とか大岡裁きなんてのはごくごく稀なケースだったという。考えてみれば、テレビドラマは毎週なんか事件が起きないことには話が進まないので、毎週のように人殺しが起きるが、そんなことはなかったのだろうな。

第三に、秀吉が太閤検地をしたことで、それまでの荘園制度が完全に廃棄され、自作農の時代になった結果、生産力が増大した、それが江戸時代の安定した経済発展の土台となったと主張している。

太閤検地にそのような意義があったのは初耳だが、江戸時代の日本は世界的に見て人口密度が相当に高かったが、それだけの人間を養っていけるだけの生産力があったし、安定した経済発展をすることができたのも戦争がなく自作農の時代だったからというのもうなずける。

第四に、農業だけでなく、農産物を土台にした工業の発展、そしてそれを支える商業の発展が、太陽エネルギーだけをつかう、究極のエコ経済の展開を可能にした、釣り合いの取れた社会だったと主張する。

まぁこれは石川さんの持論の一つで、他の大江戸物にたびたび書かれているが、改めて究極のエコ経済のあり様を多様な産物の発展などの説明とともに読んでいると、本当に江戸時代は天国のように見えてくるから、待て待てと自制しなければならない。著者の筆力に流されてはいけないが、たしかに旧来の江戸時代の見方を変えるには、これくらいの筆力が必要なのだろう。

それにしても石川さんは活版関係の会社の社長さんだったらしいけど、一生ものの仕事を見つけてよかった。

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