読書な日々

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『『百科全書』と世界図絵』

2011年12月21日 | 人文科学系
鷲見洋一『『百科全書』と世界図絵』(岩波書店、2009年)

『百科全書』と世界図絵
鷲見 洋一
岩波書店
鷲見洋一といえば18世紀の、『百科全書』の研究の大家だ。その人が、あとがきにも書いてあるように、67歳にして初めての個人論文集として出版したのが、この本である。人にはいろんなタイプがあるように、研究者にもいろんなタイプがある。論文という形式、あるいは著作という形式に向いた人、発表大好きという人、翻訳中心の人、自分の専門とするところ以外で忙しい人などなど。

鷲見洋一といえば、どれだろうか?まず論文や著作という形式に向いた人ではない。個人名で出版する著作が67歳にして初めてというのだから、一目瞭然だろう。発表大好きなのかどうか学会研究会その他に日参しているわけではないから、これは分からない。ただ本人は日本十八世紀学会の創設に関わり、設立以来の会員だと、この本のコラムにも書いていたから、こうのが好きなのだろう。人当たりもいいと自分で書いている。

著作や翻訳一覧を見ると、翻訳がそれなりにある。だから翻訳中心の人かというと、この翻訳がロバート・ダートンの『猫の大虐殺』はいいとしても、ジャルダンだとかサガンだとか、まったく専門とは関係のないような翻訳も結構ある。ただフランス人よりも素晴らしいフランス語を書くということで有名な人でもあるし、フランス語の論文も結構ある。そしてなりよりもこの人の名を高らしめているのが『翻訳仏文法』だろう。1985年の出版だから、著者40歳だい前半の著作である。これひとつでも仏文学者としての素晴らしさを魅せつけるには十分だが、しかしそれは専門とは関係ない。

きっとこの人はそういう一つのことを深く掘り下げるタイプではなく、いろんなことに触手を伸ばしていくタイプなのだろうと思う。あとがきで自分ではコツコツ・タイプだと自己弁解から開き直りに近いようなことが書いてあるが、どう見ても、自己弁解にしか聞こえないのは、あれだけの才能やらフランス語能力をもちながら「残念だ」という気持ちが湧き上がるからだろう。たしかに『百科全書』というこの巨人を、この著者が批判しているような、自分なりの切り口を提示するために「利用」するだけではなくて、全面的に捉えてなんらかの姿を提示しようとすることは、不可能に近いのかもしれないし、このようななんとも茫洋とした内容のものになるのかもしれない。

読みたい論点、知りたい事実にさらっと触れて、また別の話題に移ってしまう、そういう軽やかさがこの人の持ち味なのだとしたら、やっぱり残念としか言いようがない。


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