読書な日々

読書をはじめとする日々の雑感

「ユーロ その衝撃とゆくえ」

2008年03月08日 | 人文科学系
田中素香『ユーロ その衝撃とゆくえ』(岩波新書、2002年)

私の関心事は、ユーロって強いのか?なぜユーロ高・円安なのか?ユーロはドルとの関係では強いのか弱いのか?ということ。EU関係の本を読んでみたがよく分からない。図書館でそのものずばりの本を見つけたので読んでみた。

だが、著者はこれは入門書だとあとがきで書いているが、私にはどうみても入門書にしてはいったいユーロの今後がどうなっていくのかよく分からなかった。とにかく為替とか先物取引とかといった経済用語がよく分からない。

為替相場。たとえば円高とか円安がどう日本の経済に影響を及ぼすのか、すっと入ってこない。まず円高ってことは1ドル=100円だったのが、1ドル=90円になることだから、そうするとアメリカの同じものを買うのに以前は100円必要だったのが90円ですむようになるのだから輸入に有利になるってことで、輸出は不利になるということは、円高になるってことは日本の産業には不利ってことだな。と、まぁこんな調子で一つ一つ順を追って考えないと理解できないのだから、あとは推して図るべし。

ユーロとドルとの関係でこの本の中で書かれているドルが標準通貨だから有利っていうのがまた分からない。アメリカが双子の赤字をもっているというは有名な話で新聞でもときどき目にするが、この本ではアメリカにとっては赤字なんかはまったく気にすることではないらしい。とくに今は金本位制がくずれているので、赤字がどんだけあっても問題にならないらしい。って、本当かな?

ただこの本を読んで分かったことは、ユーロが、ドルとの変動相場で大変な思いをしてきたヨーロッパのなかでも仏独ベネルクス三国イタリアスペインあたりのEUの中心になっている国々にとって宿願であったということだ。特に当時ヨーロッパでは絶対的な安定をもち信頼感を得ていたドイツ・マルクがユーロ導入に踏み切ったことで、一気に進んだ。そしてドイツ中央銀行の物価安定という第一原則が堅持され、財政赤字を3%以内に押さえ込むという至上命令によってユーロの堅実な信頼感が維持されている。

それにしても10カ国以上の国々の通貨をユーロに統合するというのは本当に冒険だったと思う。政治統合というのはもし失敗したら解消すればいいけれども、通貨というのはいったん始めたら、おいそれとはやめるわけにはいかないし、とにかく毎日のことであるし、生活全てに関わることなので、失敗は許されないものだ。

EUやユーロを維持するために必要な3%以内の財政赤字、数%の成長率、失業率の低下などが、ちょっとやそっとのことでは暴走することはないように説明されているが、旧共産圏の小国がたくさん加盟するとそうしたバランスが崩れるのではないだろうか。なんか綱渡り的な状態だなと、他人事ながら心配しながらこの本を読んだ。

この本の冒頭にもあるように、旅行者としてはユーロ導入は便利この上ない出来事だった。これまで国境を出るたびに両替しなければならなかったのに、ユーロ一つですむ。ユーロに加入していないスイスだって、実際のちょっとした買い物はユーロで可能だ。それはたぶんイギリスでも同じことだろう。

ユーロが成功するかどうかはEUの政治統合と表裏一体でもあるということが述べられている。それはそうだろう。政治経済での統合がうまくいって始めて通貨としての統合も成功するにちがいない。この本はまだ導入直後の2002年に書かれているので、その後どうなったのかという評価はないのが残念だが、国際的な通貨としては導入直後でさえもドルへの依存度が強まっているという統計がある。ヨーロッパやアフリカの一部ではユーロも国際通貨として使われるのだろうが、それ以外のとくにアジアでは完全にドル建てだから、ユーロがドルに対等の通貨となって、ドルの横暴を押さえ込むことができるのかどうかは、先行きが見えない。

ただ円に対してはやたらと強くて、最初1ユーロ=110円くらだったのが、いまや1ユーロ=160円くらいに円安・ユーロ高になっているのはいったいどういう理由なのか知りたいのだが、書かれていないので、分からない。

この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけ... | トップ | 「ユーロの野望」 »
最新の画像もっと見る

人文科学系」カテゴリの最新記事